暁 〜小説投稿サイト〜
ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第二章 追憶のアイアンソード
第26話 父の面影
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 それが、最後の力だったのだろうか。

 彼は言い終えることなく、手を下ろし――生気を失った瞳は、暗雲が消えた虚空を見つめ続けていた。

 もう、胸は動いていない。荒い呼吸も聞こえない。
 あの時と、同じだった。

 自分を守るために死んでいった父の、最期と。

「……ぁ、あ」

 声にならない声を漏らし、竜正はアイラックスの瞼を静かに閉じる。その見開かれた瞳からは、悲しみの感情がとめどなく溢れていた。

(この世界でも……この世界でも、俺は、父さんを……!)

 父を殺し。母を独りにさせて。母の元へ帰るために戦っていたかと思えば、もう一度父を殺していた。
 父と同じ愛情を、敵であるはずの自分に注いでくれた、この人を。

(俺は、俺は……!)

 その結末が。優しい父の死に顔が。
 崩壊寸前だった竜正の心に、とどめを刺す。

「……あ、ぁ、あぁあ、あぁああぁあぁああぁああッ!」

 この世の悲しみ全てを、声として吐き出すかのように。アイラックスの骸のそばで、竜正は悲鳴を上げ、のたうちまわる。
 それに気づいたバルスレイが駆けつけ、懸命に正気を取り戻そうと呼び掛け続けたが――彼は血を吐いて気を失う瞬間まで、延々と泣き叫んでいた。

 父とアイラックスの笑顔を、決して消えない記憶として、己の心に刻みながら。

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