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霊群の杜
たたりもっけ
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家族がやるには嫌な役回りだ。俺が丁度いい。
 声の強い方向に向かう。ほう、ほう、ほう、ほう、ほう…幾重にも重なる梟の声は『異物』である俺を探るように取り囲む。しかし気にせず進む。
『あれには、具体的な感情や、人を取り殺すような能力はない。気にせず進め』
奉にはそう聞いている。だが…何か、最近少し様子が違うような。
「なんか…『強く』なっているような…」
思わず一人ごちた。空気はねっとりと重くのしかかり、歩みを阻む。…そう、阻まれている。去年までは、こんな指向性は感じなかった。


―――嫌な感じだぞ、これは。


だが進むしかない。広い屋敷とはいえ個人宅だ。今回の『場所』は、すぐ特定できた。来客用の寝室(ということになっているが実際ほとんど使われない)のドアを開くと、彼らはいた。


母の膝を枕に、軽く寝息を立てている奉を見つけた。


「もう、そんな時間なのね」
奉の母さんは、奉が身を起こすと、ため息を呑み込むような顔をした。まだ朦朧としているような奉の表情が、少しずついつもの感じに戻っていく。
「……ご苦労」
そう不躾に言い放ち、傍らの眼鏡を掛けると奉は立ち上がった。
「じゃ、戻るわ。母さん」
振り向きもせず、奉は寝室を後にした。




「今年はどうも、たたりもっけが力を付けているな」
ゆっくりと石段を登りながら、奉が呟いた。参道を囲む新緑は、昨今の長雨ですっかりくすんで見える。露草の青い花弁だけが、妙に映えていた。
「あの、ほうほう云うやつか?」
「間引かれたり、幼くして死んだ子供は梟になるという。たたりもっけ、と呼ばれている」
死んだ、子供?
「お前の兄弟、誰か死んでたか」
「…あれを『子供』と云ってよいものかなぁ…」
奉は考え込むように、視線を落とした。
「俺が玉群の家に『降りる』際、腹の子に宿る」
「あぁ…」
「最初から宿っているわけじゃない。丁度いい時期に玉群の嫁が子を孕むと、その子に強引に宿る」
「…なんだそれは」
「分かりやすく云うと、腹の子の意識を『殺し』、俺が取って代わる」
奉は何も見ていないような目をして、淡々と語る。
「あの家に満ちている気配は、俺が殺し続けて来た、玉群の子供達だ」


―――嫌な気配なわけだ。


「何故話す」
嫌な話だ。聞きたくなかった。
「あいつらが強まっているものなぁ。一応、用心にな」
「…何があったんだ」
溜まり過ぎたのだよ、たたりもっけが。そう云って、麓で買ったラムネ瓶を呷った。
「母親はな、気が付くんだよ。どうも、俺さえ降りなければ生まれる筈だった自分の子が、自分の周りを漂っているらしいことを。その様子に、俺も気が付く。黙殺すればいいんだが、それも…まぁ、寝覚めが悪い。だからたたりもっけの力が強まる
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