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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五十二話 ヴェストパーレ男爵夫人
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、そういうものではないのです。勅令の発布後、反乱軍もフェザーンも帝国の動向に非常に大きな関心を寄せています」
「……」

確かにそうだろうとは思う。本当に改革が行なわれるのか、それとも形だけのもので終わる、あるいは廃止されるような事になるのか、帝国の進む方向に誰もが関心を抱いている。

「私達は彼らに帝国が新しく生まれ変わった事、これからの帝国は平民の犠牲の上に成り立つ国ではない事を証明しなければならない。それこそが今回の内乱鎮定で求められるものなのです……」

「……」
「将来的に反乱軍、フェザーンの人間達が帝国の統治を受け入れることに不安を感じるような勝ち方は許されないのですよ」

司令長官の声が応接室に流れる。沈鬱な色合いを帯びた声だ。その声に引き込まれるように私は司令長官の顔を凝視した。いつも穏やかな表情の司令長官が何処か厳しい表情をしている。

「戦術的勝利に拘る余り、それを忘れてもらっては困ります。ただ勝てば良い、そんな勝ち方は宇宙艦隊副司令長官には許されない」
呟くような口調だった。その声に厳しさを聞いたのは私だけだろうか?

ワルトハイム参謀長、シューマッハ副参謀長も厳しい表情で司令長官の言葉を聞いている。二人には思い当たる節が有るのかもしれない。戦術的勝利に拘る、つまり自ら武勲を挙げる事に固執する、そう司令長官はラインハルトを評価している。

「つまり司令長官閣下が私に求めているのは、ローエングラム伯が戦術的な勝利に拘る余りそれを忘れるようであれば注意せよ、ということでしょうか?」
確かめるようにゆっくりとした口調でヒルダが司令長官に問いかけた。

「その通りです。貴女にはそれだけの力が有ると思っています。ローエングラム伯も相手が女性だからといって意見を拒絶するような狭量さは持っていません。協力し合えば良い結果を出せると思います」

司令長官は穏やかな表情に戻ってヒルダに答えた。だがヒルダの表情は硬いまま、顔色は蒼白になっている。思わず私は司令長官に問いかけていた。
「もしローエングラム伯が彼女の意見を受け入れず、戦術的な勝利に拘るような場合はどうなるのでしょう」

幾分掠れたような声だった。私は気付かないうちに緊張していたのかもしれない。
「……宇宙艦隊副司令長官に相応しからざる人間がその地位に就いている、そういうことになりますね」
「!」

応接室の緊張が痛い程に高まった。ヴァレンシュタイン司令長官、私、ヒルダの視線が交錯する。そして司令長官は視線を私に当ててきた。
「昔はともかく、今の帝国軍はそのような事を許す程甘い組織ではありません」

司令長官の視線に私は身動きも口を開く事も出来なかった。それほど厳しい、いや冷たい視線だった。

「フロイライン、決して楽な仕事では
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