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第三十二話 あるささやかな出会いです。
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目撃したことのないような世界が広がっていた。テーブルの上や床を問わず、書籍や衣類が散乱しており、テーブルの隅に申し訳なさそうにデリバリーピザの箱が、半分宙に体をはみ出しておかれているし、ソファの上には、まるでこの家の主人は俺だと言わんばかりに酒瓶が列をなして、あるいはでんと寝転んで鎮座ましましている。カーテンはここ何週間も開かれていないかのように重たげにしめられているし、ごみ箱にはこれでもかというくらいにぎゅうぎゅうと雑多なものが押し込まれている。 台所に行けば食べっぱなしの皿がいくつも無造作に放り込まれている。ユリアン少年がよく見ると、それはデリバリーディナーの貸し皿だった。貸す方も貸す方だと思いながら、ユリアン少年は抱きかかえていた猫に冗談交じりに話しかけた。

「お前、僕についてきて後悔していないかい?」

 だが、ユリアン少年はいつまでも悲嘆に暮れているような蒲柳の質ではなかった。彼はそれまで培ってきた家事全般におけるスキルを最大限に発揮して、この名だたる名指揮官の家の中の「手ごわい相手」を掃討するのに躍起になったのである。そのかいあって、わずか3日後には、ヤン家のカーテンはさんさんと降り注ぐ日光と風を気持ちよさそうにその身に受けて、閃かせ、リビングには陽光がみち、ピカピカに磨かれたフローリングは輝かしい光沢を放ち、水の染み一つなく磨かれた台所からはアイリッシュ・シチューのおいしそうなにおいが漂っているという具合になっていた。

 これにはヤンも驚いたらしい。憮然とした顔になってしばらくソファに座り込んでいた。彼はどちらかと言えば乱雑な方が気分が落ち着くという人柄だったから、にわかに降ってわいたこの状況をどう受け入れるか、悩んでいたのである。

 お帰りなさい、食事にしますか?それともお風呂にしますか?と明るく言うユリアン少年に、ヤンはどう切り出していいか迷っていたが、意を決して開いた口から出た言葉は彼の意志と反する別の物だった。

「そうだな、紅茶を一杯もらえるだろうか?」

 はい、ただいまお持ちします、と明るくいうユリアン少年が姿を消し、しばらくすると馥郁と香り立つ紅茶のカップをソーサ―に乗せて、差し出した。

「おっ?」

 そう声を出したのは、ヤンらしくなかった。だが、実際そう声を出すだけの価値はあったのだ。シロン産の紅茶。銘茶として知られており、ヤン自身も何度か口にしたが、これほど芳醇な香りと味を舌に鼻にもたらしてくれる淹れ手は初めてだったのだ。

「お前、紅茶の淹れ方をどこかで教わったのかい?」
「はい。父が紅茶好きでしたので」

 ミンツ大尉がね、とヤンは口に出さずに思った。キャゼルヌから送られてきた資料を一通り読んだヤンは、この目の前に立っている明るい少年が実はどんなに苦しい生涯を過ごしてき
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