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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百七話 狂える獣
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国軍五個艦隊、六万隻を超える艦艇が行動の自由を得たのだ。それがローエングラム伯率いる迎撃軍に合流すれば二十万近い大軍になる。味方はその七割程度の戦力しかない。

「艦隊を後退させるべきではないでしょうか、このままでは優勢な敵とぶつかる事になります」
「……」

ドーソン総司令官は目を激しく瞬かせながら周囲を見渡した。自分では判断できないのだろう。どうしてこの男が総司令官に、宇宙艦隊司令長官になったのか……。

政治家達が彼を選んだのだが、これ程の不適格者はいないだろう。忌々しいことに軍の人事は政治家たちの勢力争いに利用されている。

軍が政治に関与するなというのなら、政治も軍を政争に巻き込むなと言いたい。一体どれほどの人間を馬鹿げた政争の犠牲者にすれば気が済むのだ。

「小官は反対です。むしろ前進すべきです」
「フォーク准将、貴官は何を言っている。味方が劣勢な状況に有るのだぞ、分っているのか」

「総参謀長、むしろ各個撃破の好機です。そのためにも急ぎ進撃し、敵の合流を阻むのです」
「戦いが長期化すれば、敵が合流する。危険すぎる、退くべきだ」

戦いが常に自分の思うように動くとは限らない。常に最悪の場合を想定して動くべきなのだ。最悪の場合、味方は二十万近い敵と戦う事になる。

まして味方は敵地に攻め込んでいるのだ。地の利を得ていないことも、補給線が常に分断の危機にあることも忘れるべきではない。敵地で孤立した軍隊が勝つことなどありえない。

そのことを私は周囲に説いた。だが説きつつも無力感を感じざるを得なかった。遠征軍総司令部の人間は私を信用していないのだ。フレデリカがヤン中将の副官を務めている事が影響している。

彼らにとって敵とは帝国軍のことではない。イゼルローン要塞攻略で宇宙艦隊司令部の顔を潰したヤン中将たちなのだ。そして私は憎むべき敵ヤン中将に愛娘を差し出した裏切り者にすぎない。馬鹿げている。敵と味方の区別も付かない愚か者たちが司令部を構成しているのだ。

「恐れる必要は有りません。ローエングラム伯は用兵家としては見るところは有りません。前回のイゼルローン攻略戦がそれを示しています。それに人望も無い。部下たちが彼の指揮に従うとも思えません」

「それに、ヴァレンシュタインも艦隊指揮の経験の無い素人です。おまけに病弱でまともに艦隊指揮など出来るわけがありません。各個撃破のチャンスです」

馬鹿な、何故そんな考えが出来るのだ。ヴァレンシュタインはミュッケンベルガーの腹心といわれた男だ。彼の恐ろしさは、第六次イゼルローン要塞攻防戦で嫌というほど思い知らされた。フォーク准将、貴官もその一人だろう……。

「うむ、フォーク准将、貴官の言うとおりだ。全軍を前進させるのだ」
「閣下、それは」
「総参謀長
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