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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八十八話 第七次イゼルローン要塞攻防戦(その4)
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最初にフォーゲル、エルラッハだな。
三人がスクリーンに映った。
「司令長官、我等は此処で敵を防ぎます。司令長官は急ぎ撤退してください」
「何を言う、ゼークト提督、卿らを置いて撤退などできぬ」

「閣下、前面の敵も側面の敵も味方の到着と共に攻撃が激しくなっています。今我等が撤退すれば潰走になりかねません。本隊をも巻き込んでしまいます。そうなれば秩序だった撤退など出来ません。全滅することになります。我等に構わず撤退してください」

確かにゼークト提督の言うとおり敵の攻撃はまた厳しくなっている。メルカッツ達の一隊を前面に移動させるべきか?そうすれば多少息がつけるか? いや駄目だ、時間が無い。移動させようとする前に壊滅しかねない。今この場で撤退だ!

「司令長官を戦死させては我等の面目が立ちません」
何を言っている、ゼークト。面目とは何だ? ゼークトもフォーゲルもエルラッハも皆微動だにせず俺を見詰めている。俺に卑怯者になれというのか?

「早く撤退せんか!」
「!」
エルラッハ……。

「俺は卿が嫌いだ! だがな、卿は宇宙艦隊司令長官だ。司令長官は死んではならんのだ。判るか小僧、司令長官が死ねば軍が混乱する。体制を整えるのに時間がかかるのだ。卿の事などどうでも良い。しかし宇宙艦隊司令長官は死んではならんのだ!」

「エルラッハ……」
ゼークトもフォーゲルも、いや艦橋にいる人間全てがエルラッハを止めようとはしない。皆同じ意見なのか……。

俺は一体何を見ていた? ゼークト、フォーゲル、エルラッハ……。俺が無能だと思い、軽蔑していた男たち。だがその男たちが今、俺を、いや宇宙艦隊司令長官を逃がすために死のうとしている……。

宇宙艦隊司令長官……、実働部隊の最高責任者。その重みを俺は理解していたか?
何処かで軽く考えていなかったか? 死ぬ事が出来ない立場だと分っていたか? その事がこの男たちを死に追いやっている。俺は何をやっているのだ?

「早く行け、行かんか、小僧!」
エルラッハの怒号が艦橋に響く。誰も何も言わない。そうだ、これは俺が決断すべき事だ。

「閣下、ご決断を」
オーベルシュタイン……。
「本隊は直ちに撤退せよ」

唇が声が震える、いや震えているのは全身だ……。ゼークト、フォーゲル、エルラッハが敬礼してくる。

俺は答礼しなければならない。しかし手が震える。答礼できるか? いや宇宙艦隊司令長官として答礼するのだ。周りの景色が歪む。涙がこぼれそうだ。耐えろ。この男たちの顔をしっかりと見るのだ。

俺の愚かさが殺してしまう男たち。俺に愚かさを気付かせてくれた男たち。そして俺などよりはるかに軍人としての覚悟を持っていた男たち……。駄目だ、涙で見えない。眼を閉じるな! 涙がこぼれる……。

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