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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十九話 信賞必罰(その2)
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ながら疲労の色が見えるシトレ本部長に答えた。

最終的に損害は艦艇一万八千隻、兵員百四十万人にのぼる。褒められたからといって素直に喜べるものではない。本部長自身、この件で憔悴している。本部長個人に罪は無いとは言え、軍のトップは本部長なのだ。色々と責められているのだろう。

「それでも君がいなければ、全滅していただろう。それは皆が認めるところだ」
「ティアマトの英雄ですか」
幾ばくかの苦い思いと共に吐き出す。“ティアマトの英雄”。

「不本意かね」
苦笑しながら本部長が問いかけてくる。
「ええ」

“ティアマトの英雄” 戦場からハイネセンに戻った私を待っていたのは敗戦を糊塗するべく英雄に祭り上げられた私自身の虚像だった。御偉方と共にマスコミの前でピエロのごとく動く自分をTV映像で見るのは苦痛だった。

「想像はつくと思うが、今度君は少将になることになった」
「……」
「此処最近、同盟は帝国に負け続けている。英雄になるのも仕事の一環だと思いたまえ」

「……」
私が何も言わない事に本部長は苦笑と共に言葉を続ける。

「今回の敗戦ではドーソン司令長官の進退は問わない事になった」
「そうですか」
「最終的に敵の侵攻を阻んだ事が評価されたらしい」
「……」

つまり、私は余計なことをしたわけか。大敗していれば、ドーソンから別な人へ交代していた……。中途半端な敗北がドーソン司令長官を助けている。
「そんな顔をするな。君はできる事をしたのだ。そして間違った事もしていない」
「……」

シトレ本部長は気遣わしげに力づけてくれるが少しも心に響いてこない。しかし本部長も一度は私と同じ事を考えたはずだ……。もっと損害が多ければと。

「ドーソン司令長官と上手く行っていないようだな」
「ええ」
「色々と聞いている。君が英雄と呼ばれているのが気にいらんらしい」

「馬鹿馬鹿しい話です」
そう、馬鹿馬鹿しい話だ。何かにつけて私を叱責して喜んでいる。たとえ英雄でも自分の部下に過ぎない、それを周りに教えたいらしい。

「ヤン少将、君がキャゼルヌに言った事を聞いたよ。帝国軍は、戦うごとに強くなっていると、本当かね」
「根拠はありません。ただそう感じただけです」
「根拠は無い、ただそう感じるか……。十分だ、私は君の言葉を信じる」
「!」

「ドーソン司令長官で対抗できるかね?」
「……難しいですね」
あの擬態にああも簡単に引っかかるようでは話にならない。あれが無ければこれ程酷い敗戦にはならなかったはずだ。私はそのことを本部長に告げた。話すにつれ本部長の顔が歪む。

「ヤン少将、我々にできる事は?」
沈痛な表情でシトレ本部長が問いかける。追い込まれている、本部長は追い込まれている。
「……敵を迎え
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