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藤崎京之介怪異譚
last case.「永遠の想い」
V 同日 PM.8:39
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と、それに奏夜が敏感に反応して言った。
「兄貴…未だ大学ん時のこと引きずってんのか?ありゃ、兄貴のせいなんかじゃねぇよ。何度も言ってんだろ?あれは…」
「いいや。あれは俺が居たから…生まれてしまったから起きたことだ。俺が生まれなければ…あいつは死なずに済んだ筈だ。」
「兄貴、いい加減にしろよ!」
 奏夜は怒鳴った。そうして後、奏夜は面と向かって俺に言った。
「いいか?河内さんは兄貴が好きだった。一番の親友だったから兄貴を助けたんだ。そんな河内さんの心、兄貴は無駄にする気かよ。」
 いつになく厳しい表情で奏夜は言った。その言葉に、俺は宮下教授のことを思い出した。
 宮下教授はあの時、今の奏夜と同じように叱ってくれた。あの事件の後、俺は暫く大学を休んでいたが、そんな俺を心配して宮下教授はよく家に顔を出してくれた。
 いや、宮下教授だけでなく、今はバラバラになってしまっているサークルの仲間達も何かにかこつけては来ていた。そんな皆に、俺は少しずつ癒されていたのだ。時には帰国した相模も顔を出してくれ、沢山の土産話を聞かせてくれたんだったな…。
 だから…俺は立ち直ることが出来、そうして今があるんだ…。
「だから…伝えとうなかったんじゃ…。」
 俯いたまま黙していた俺と奏夜に、アウグスト伯父が静かに言った。
 隣にいた宣仁叔父や父もまた、一様に沈鬱な表情を見せて俺を見ていた。
「京。お前の誕生にどんな意味があれ、お前がこの先どうしたいかだ。私が言うのもどうかと思うが、お前の人生はお前のものだ。他人の言葉だけに従って生きる必要はない。お前自身が判断し、決定すれば良い。」
 父はそう言った。無責任なようにも聞こえるが、これが父の愛だと解っていた。父が俺を心底心配してくれてるのはよくわかる。普段は世界を飛び回っている父が、ここ数ヶ月に幾度もここへ足を運んでいるのが証拠だ。忙しい筈なのにな…。
「そうだね、父さん。俺は…皆といたい。ただ音楽をして、皆と一緒にいられさえすればいいんだ。」
 俺はそう返した。だが…心はそれが不可能だと告げていたが、俺はそれを態度に見せず、それに抗って願いを言葉にしたのだ。
「そうだな…そうすれば良い。たとえお前がどうなっても、お前は私の息子に代わりないんだからな。」
「そうだ。京、お前は我らの可愛い甥だ。のぅ、兄上。」
「そうじゃよ。何も心配せんでいい。京、お前は自身の思う通りにせい。」
 皆はそう言ってくれるが、やはり俺の心はこの幸福が消え去ることを確信していた…。
 俺はただ…ほんの少しの幸福で良かった。普通で良かったんだ。神やら悪魔やら関係なく、ごく普通でありたかった。友人と休日に遊びに出掛けたり、家族で食卓を囲んだり、弟や妹達と買い物してみたり…時には喧嘩なんかも…。
「そうだね。僕はそうなるよう
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