暁 〜小説投稿サイト〜
鎮守府の床屋
後編
7.最後の客
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 俺は提督さんに無理を言って、川内に死化粧を施した。川内をバーバーちょもらんまに運び、球磨に頼んで川内の服を着替えさせてもらった。その後散髪台のソファに座らせ、限界までリクライニングを倒す。そして顔をキレイに拭いてやり、顔についた傷を化粧で隠して、頬にチークを塗ってやった。

「……よし」

 化粧が終わった川内の顔は、本当に穏やかだ。血色もよく見える。今にもあくびしながら起きてきそうなほどに……よく見たら胸が上下して寝息が聞こえてきそうなほどに、キレイになっていた。

「……なんなら起きてもいいぞ川内。いま起きたら夜戦も付き合ってやる」

 俺としてはかなりの大サービスをふりまいたつもりなのだが、やはり川内の耳には届かなかったようで……彼女が起きて『やーせーんー!!!』と大騒ぎすることはなかった。あの、暗闇でも眩しく光るフラッシュライトのような笑顔を彼女が見せることは、もうない。

 カランカランという音が鳴り、球磨が店内に入ってきた。他のみんなと川内をどう葬るかの話し合いをしてきたそうだ。

「終わったクマ?」
「んー」

 球磨は俺の隣に来て、川内の顔を覗きこんだ。

「……なんか信じられないクマ」
「何がだよ」
「川内、寝てるだけみたいクマ。張り倒せば起きそうだクマ」
「気持ちはわかるけどな。寝かせといてやれ」

 口をとがらせ、悔しそうにアホ毛をぐにぐにと動かしながら、球磨は川内のそばまで歩いてくると、彼女の頭を優しく撫で始めた。川内が息を引き取った直後の動揺した球磨の姿は、もうなかった。

「川内、どうするか決めたか?」
「水葬にするクマ。海なら、みんないるから」

――だってみんなと行かなきゃ。みんなが待ってるから

 フと、夢の中で無表情な球磨が呟いた一言を思い出した。『待ってるみんな』って死んだ奴らか? 待ってるってどういうことだよ。待ってるわけないだろうが。妙なことを俺に吹き込むな。

「……そか」
「……せんだーい。お別れだクマ。先にみんなのとこに行ってるクマー……フラッシュライトみたいな眩しい笑顔ももう見れないクマね……」

 化粧する前、球磨が服を着替えさせるときに一瞬川内の横っ腹が見えたが、肌が白くてキレイだった。背中もきっと同じように真っ白でキレイな肌だったろうに……何も出来なくてすまん川内。出来れば背中の傷もキレイに隠してやりたかったが……

「ちょっとごめんな川内」

 一応川内にことわりを入れ、肩の那珂ちゃん探照灯のスイッチを入れてみる。血をキレイに洗い落とした那珂ちゃん探照灯は、俺がスイッチを入れると無事に光った。よかった。壊れてはないようだ。

 次に、右足に取り付けられた神通の探照灯のスイッチを入れる。こちらも問題なく光った。

「よ
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