暁 〜小説投稿サイト〜
鎮守府の床屋
後編
7.最後の客
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し。これならまた夜戦が出来るな」
「よかったクマ。……せんだーい。またバリバリ夜戦が出来るクマよー?」

 球磨が川内の頭を優しく撫でながら、そう呼びかけた。その姿は、川内の返事を待つかのように見えた。

 不意にカランカランとドアが開き、北上が入ってきた。北上もいつもと変わらないようには見えるが、目が少し赤い。俺の見てないところで、川内の死を悼んでいたようだ。

「球磨姉、終わった?」
「さっき終わったクマ。そっちの準備は出来たクマ?」
「出来たよー。……あ、ハル」
「んー?」
「さっき提督が呼んでたよ? 川内の水葬は私たちに任せて、執務室に行って」
「んー。分かった」

 未だに川内の頭を撫でている球磨のそばに行き、俺も右手で川内の頭を撫でた。サラサラでストレートな髪の感触が心地いい。髪もカットしてやりたかったな……

「川内、これでお別れだな。暁ちゃんによろしく言っといてくれ」

 俺の左手を球磨が掴んだ。その手には力がこもってなくて、悲しみとか郷愁とか不安とか……そういう繊細な感情がイヤというほど伝わってきた。俺は球磨の手を強く握り、その不安を出来るだけ打ち消してやろうとしたが……俺にそんなことが出来ただろうか。

「じゃあな川内。また会おうな。次はお前の姉妹の紹介をしてくれよ」

 後のことを球磨たちに任せ、俺は店を出た。俺は、川内の力になれただろうか。『せめて逝く時はキレイに』と思って川内の死化粧をしたが、それは果たして、川内にとってうれしいことだったのだろうか……疑問は尽きない。

 執務室に向かう途中、海を見た。今日の天気は曇りだが、海は凪で波も静か。川内とビス子が亡くなったこと以外は、いつもの、穏やかな鎮守府と変わらない。

「……なんでいつも通りなんだよ」

 これが、夢の中の時みたいに海が真っ赤に染まっていたり、大嵐で海が大荒れだったりすれば、まだ終末感が漂っていたのに……これじゃあいつもの鎮守府じゃないか。いつもの、いつも通り終わって、いつも通りの明日がやってくる、いつも通りの鎮守府じゃないか……

 少し足を伸ばして、加古の昼寝ポイントに向かった。さすがに今日は加古もここにはいない。灯台を見下ろすと、加古と北上、そして球磨の三人が、川内の遺体をボートに乗せて出発していくのが見えた。すぐそばの海域に川内を葬るという話だった。

 四人の姿を昼寝ポイントから見送った後、俺は改めて執務室に向かった。執務室の前に到着し、ドアをノックする。いつもと変わらない日常。

「とんとん。提督さん、ハルです」
「入ってくれ」

 提督さんの許可を経て、執務室の中に入る。執務室内には、険しい顔をした提督さんが、一人で自身の席に座っていた。隼鷹はいない。川内が命がけで伝えてくれた情報
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