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鎮守府の床屋
前編
11.祭だ祭だっ!!(後)
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 『言葉を失う』という状態は、きっとこういうことを言うのだろう。俺は、球磨の浴衣姿を見ながらそんなことを考えていた。

「ど……どうクマ?」
「……」
「ちゃ……ちゃんとうなじも出したクマ……」
「お、おう……」

 正直、俺はこの妖怪アホ毛女を舐めていた。俺は、この球磨のことだから、浴衣を着ても猿に烏帽子でちんちくりんな出で立ちにしかならんだろうとたかを括っていた。

「……お、おうだけじゃ分かんないクマ……」

 紅をさした球磨が、俺の所に近づいてきて袖のさきっちょをつまみ、伏し目がちにこう言った。髪を整えてた時はあんなに拒絶してたのに、いっちょまえに髪を上げてうなじも見せていた。

 白状する。まさかとは思ったが……めちゃくちゃ似合ってて可愛かった。

「……似合ってると思うぞ」
「ほんとクマ?」
「おう……」
「よかったクマ!」

 球磨は心底うれしそうに100万ドルの笑顔を浮かべながら、俺の右手を取って左右にぶんぶんと振り回していた。ちくしょう。かわいいじゃねーか……。手が柔らかくてあったかいだなんて不意打ちだぞ……。

「ね? 言ったとおりだったでしょ?」

 周囲にカワイイ光線を振りまいて上機嫌の球磨に、いつもと変わらない服を来た北上が近づいてきて、こう話しかけていた。

「似合ってるって言ったじゃん」
「そうクマね! 北上の言うこともたまには信じられるクマ!!」

 敢えて突っ込まないが、そのセリフも中々酷い言い草だと思うぞ。

「多摩姉も喜んでるかもね」
「そうクマね」

 ん? 多摩姉? 多摩っていえば確か……

「この浴衣は多摩の大切な形見だから、今日着て、ハルに見せたかったクマ。似合っててよかったクマ」

 笑顔でそう語る球磨を見て俺は、自分の心臓が一拍だけ強くドキンと脈打ったことを感じた。なんだか心地いい胸の締め付けを感じ、顔が紅潮してきたのが分かった。そんな自分がなんだか恥ずかしくなり、俺は球磨の目をまっすぐ見ることが出来なくなった。

「よ、よーしそろそろ行くぞー!」
「了解だクマー!」
「行こーう。しゅっぱーつ」

 三人でバーバーちょもらんまをあとにしようと店のドアを開けたその時だった。ドアの開閉を知らせる『カランカラン』という音に混じって、聞きなれない声が聞こえた気がした。

――よく似合ってるニャ ありがとニャ

「ん?」
「クマ?」
「んー……」
「クマ……」

 ん? なんか二人とも様子がおかしいような?

「どうかしたか?」
「あ……んーん。なんでもないクマ」
「そか」
「クマっ」

 ……まぁ偶然だろう。

 店を出た後は、三人で中庭まで歩く。季節はもう秋で、お日様が落ちればとても涼しい。道
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