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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十七話  俘虜の事情と元帥の事情
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皇紀五百六十八年 四月一日 午前第十一刻 俘虜作業場
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長 馬堂豊久


 豪雪地帯での春はただ素晴らしいものではない。雪解け水によって踏み固められた雪道は泥濘となってしまい、時にそれは非常に危険な事である。
 〈皇国〉で――とりわけ龍州や北領で産まれ育った俘虜達はそれを理解していた。
「〈帝国〉軍には森林の伐採と運搬を命じられているが、折角生き残る事が出来た兵を事故で負傷させてしまうのも阿呆らしい話だね、手抜きが得意な奴は挙手、大隊長、怒らないから」
 などと最高責任者がのたまった事で半ば公然と俘虜達は手を抜いて働いている。
「少佐殿、今日は四十本位で如何でしょうか?」
 冬野曹長が本来命じられている仕事量のわりにのんびりと聞く。
「その位で良いだろう。
〈帝国〉さんも、俘虜を働かせて予定通りの成果なんて最初から期待していないだろうよ」
 馬堂少佐も細巻を揺らしながらのんびりと応えた。
「了解しました、少佐殿。それじゃあ戻ります。」
兵達の様子を見に曹長が戻るのを見ながら西田が呆れた様に口を挟む。
「少し手を抜きすぎじゃありませんか?
〈帝国〉軍の要求は六十本です。幾ら何でもあからさま過ぎますよ」

「そうでもないさ、向こうさんも最初から必要量より多目に要求しているし、此方にも碌な期待をしていないさ。
元々向こうは奴隷の扱いに手慣れているのだからね。まぁ文句を言われたら一週間位は量を増すさ」
 馬堂少佐は悪びれた様子もなく肩を竦める。
「奴隷の扱い、か。
まぁ年季明けの時期が分かってる分、ここらの住人達よりはまだましでしょうかね」
杉谷少尉も皮肉に唇を歪める。

「――そうだな、戻ったら戻ったで面倒があるだろうが」
茫洋とした面持ちで豊久は天に薄く輝く光帯を見上げた。

西田が声を上げた、何かを見つけた様だ。
「あれ? 少佐殿、あそこを歩いて来るのは、
皇国の官僚達じゃありませんか?」

「あぁ確かに、兵部省の文官組だな」
 法務・主計・広報等々、様々な部局において兵部省に占める文官の割合はけして低いものではない。
「少佐殿、何か不味い事したんじゃないですか?」
 西田は悪戯っぽく笑う。
「・・・心当たりが無いわけではないが。」
 ――あの撤退の後、笹嶋中佐との交渉やら実仁親王殿下との文通(?)やら、無茶はしたが・・・。 いやはや必死とは、げに恐ろしき物である。
 
「無いわけがない? 有りすぎて逆に、じゃないのですか?」
的確な突っ込みである。
「・・・・・・ま、まぁ、時期的にも多分俘虜の確認だろう。
ついでに内地の状況を幾らか教えてもらいたいな。」
 ――内地 いや、故国では今頃、駒城の殿様達がこの戦の後始末や守原の北領奪還作戦を潰すのに
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