暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第3章 黄昏のノクターン  2022/12
34話 造り物の心
[1/8]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
「悪かった、金輪際勝手な真似はしない!? だからもう止めてくれ!!?」


 半二階から見下ろしていた、海賊然とした水運ギルドの親玉は十数分前の威勢は消え失せ、声を震わせながら命乞いを繰り返すだけとなっていた。
 この状況に至るまでの間に、コルネリオは自身に向かってくる水夫や木こりの全てを容赦なく叩き潰し、俺達は自衛さえすることなく事態は終結してしまったのだ。鞘に収まったままの刀はいよいよ血に染まることなく、しかし鞘や柄尻が猛威を振るった傷跡は凄まじい。酒場を思わせるバーカウンターに水夫の身体を挟み込むように谷折りになっていたり、天井の梁から干された布団の如く垂れる木こりが呻き声をあげていたり、暴力の凄惨さを物語る光景は枚挙に暇がない。その全員がスタンから復帰していないので死人こそ出さずに済んだものの、なまじアバターが消滅しなかったからこその地獄絵図というものだろうか。あまり女の子に見せるのが憚られる光景である。

 ………当然、男も例に漏れず、手摺の吹き飛んだ半二階のバルコニーから突き出されて宙ぶらりんに吊り下げられていた。片方の足首だけを左手だけで支えるという、およそ人間業から外れたものであったが、それでもコルネリオの顔は眉一つ動くこともない。ただ冷たい表情で、無様な男を見下ろしていた。


「要領を得ないな。私が求めているのは謝罪ではないのだよ………その貧相な頭を使って考えたまえ」


 苛立ちさえ匂わせるような棘のある低い声で呟くと、男は喉を鳴らして矢継ぎ早に口を動かした。


「わ、分かったぞ………エルフどもとの取引の儲けか!? アンタ達に話を通さなかったのは悪かった! 分け前も渡すから………!」


 男の発言を受け、コルネリオは何かを窺うような面持ちで俺達に視線を向けてきたものの、当初の目的とは大きく異なる示談内容だ。一応は周りの意見も取り入れた上で返答を返そうとするものの、クーネ達は目の前で繰り広げられた事件の一部始終に腰を抜かしてしまって論外。ヒヨリはティルネルに目と耳を覆われて――――正確には、抱きしめられて――――いたのでこちらも論外。唯一の有効票であるティルネルは首を縦に振って拒否の意思表示を見せる。
 ティルネルに倣い、俺もコルネリオに首を横に振って見せると、コルネリオは首肯した後に再び逆さ吊りになっている男に冷たい視線を落とす。


「それだけで話が収まるとでも思ったのか?」
「じゃ、じゃあ、あれか!? ずっと《みかじめ》を払いそびれていたもんな! その事だろう!?」
「………どうも、君には失望させられるよ」


 半ば自暴自棄な勢いで捲くし立てる男に対して、コルネリオは深く溜息を吐き、腰に佩かれた《朔》を抜き放ち、男の左耳に切っ先を添えた。



「………そろそろ腕も
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ