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執務室の新人提督
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も熟練兵もない。
 沈むときは、どんな存在であっても簡単に沈むのだから。
 
 故に、飛龍は訓練中だけは厳しく接した。偶に一緒に出る出撃でも、動きに過ちがあればすぐ口にし、一緒に出ない時でも山城や初霜、鳳翔龍驤に状況を聞いて、当人に報告さえさせた。
 
 ――ちょっと違うけど、加賀さんと瑞鶴みたいね。

 加賀は何かあればすぐ瑞鶴に小言を零す。ただ、瑞鶴はその小言にすぐ噛み付くので、その辺りが違う。しかし、加賀と瑞鶴は確かに誰の目から見ても反目しあっている存在であるが、あれはあれでお互いを信頼してる節があるので、その辺りも違うのだろうと飛龍は自嘲した。
 
 と、弓道場の扉がノックされた。
 教育施設にある弓道場よりも小さな物である。おまけに場の空気は実に静かだ。大きくもない音でも、葛城と飛龍の耳には確りと届くのである。
 
 さて、誰だろうか、と扉に向かおうとする飛龍より先に、葛城が動いていた。指導艦である飛龍が動くほどの事ではない、と考えたからだろう。彼女は飛龍に小さく頭を下げて扉へと近づいていく。そして扉の前に立つと、声を上げた。
 
「はい、どちら様でしょうか?」
「どうも、提督です」
「……本当に提督?」
「本当に提督です」
「プラーヴダ?」
「ダー」

 飛龍を置いて、葛城は扉の向こうにいる提督と会話を続ける。そして何故か最後のほうはロシア語であった。ちなみに、本当ですか? と聞いた葛城に提督が、はい、と答えたのである。
 頭を抱える飛龍をよそに、しかし会話はまだ続いていた。
 
「最初に上下逆さまに復元されて、最近では前後も逆じゃねこれ、って発表されたカンブリア紀中期後半のバージェス動物群の一種は?」
「ハルキゲニア・スパルサ」
「あ、提督!」

 葛城は笑顔で扉を開けた。入ってきたのは確かに提督であった。
 葛城という少女は、艦娘として確立するより先に、この鎮守府の色に染まるほうが早かったのかもしれない。そんな事を思う飛龍を、誰が責められるだろうか。
 
「飛龍さん、提督が見学に来たって」
「分かりました。じゃあ葛城、しっかりと弓を構えて」
「はい!」

 飛龍の言葉に葛城は敬礼で返して再び弓を構える。狙う先は、未だ中央に何も刺さらぬ的である。
 提督は静かに、邪魔しないようにと飛龍の隣に立った。飛龍が深々と、静かに頭を下げて提督もまた頭を下げた。
 そして、小さな、葛城の耳に届かないような声で提督が飛龍に話しかけた。
 
「葛城さんの調子は、どうですか?」
「まだまだ、としか」

 応じる飛龍の言葉は、どこか硬い。今の彼女は指導艦であり、葛城の同僚でも先輩でもない。まして相手はこの鎮守府の、そして自身達の主提督だ。些細な事でも偽れるわけがないのだ。
 それ
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