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執務室の新人提督
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今この場で行われているのは葛城の為の訓練で、飛龍は指導艦だ。
 であれば、飛龍はこの場に限って言えば葛城の上官であり教師である。先輩でも同僚でもないのだ。
 
「イメージが湧かないのなら、誰かが艦載機を飛ばしている姿を想像してみて」
「……誰か、ですか?」

 構えも解かず、飛龍の言葉に葛城は首を傾げた。そんな葛城に飛龍は小さく頷いて続ける。
 
「それを、自分の理想的な姿に近づけて放つ。何度でも。出来るまでやりなさい」

 若干座った目で、それでも確りと言い放つ飛龍に葛城は唾を飲み込んで頷いた。そして、飛龍が言った通りに、誰か、の戦場での戦闘機発艦の姿を脳裏に鮮明に描いた。
 鮮明に、繊細に描いたのは勿論瑞鶴である。彼女にとって瑞鶴は尊敬に値する先輩であり、栄光ある帝国海軍を代表する空母であるのだ。
 
 そう、戦闘機の扱いにも未だ戸惑う葛城とは違うのだ。
 
 葛城、という正規空母が建造されたのは、既に敗戦の色濃い頃であった。空母としてこの世に鉄の体で生まれども、その身に置くべき戦闘機は少なく、更にその戦闘機を動かすパイロットにも窮していたのだ。空母の発着艦が出来る熟練パイロットなど、とうに泉下であったのだ。
 他にも、進水式には失敗、機関は駆逐艦の物を使用、とどうにも葛城という艦は恵まれていないのだ。
 その為だろう、艦娘として今ここに少女の体である葛城は、戦闘機の扱いに少々ぎこちなさがある。おまけに運動能力も艦時代の機関の問題のせいか、姉達に比べて少しばかり劣るのである。
 となれば、もう技術を向上させるしかないのだが、前述のとおり葛城は戦闘機の扱いが苦手なのである。
 
 ――私が、瑞鶴先輩みたいになれるのかな……
 
 脳裏に描かれた瑞鶴に比べて、葛城は自身の境遇はどうなのだ、と胸中でため息を零した。が、今彼女の後ろには指導の為に立つ飛龍がいる。葛城の迷いを見抜けないような飛龍ではない。
 結果、
 
「しっかりしなさい!」
「は、はい!!」

 怒鳴り声だ。
 常は朗らかで、誰にでも明るく接する先輩の張り詰めた気配を受けて、葛城は背を正した。それでも、的を睨みつけながら葛城は思うのだ。
 
 ――姉さん達も、今頃龍驤さんに怒られてるのかな……

 つい今しがた怒鳴られたばかりであるのに、そんな事を考えられる葛城はなかなかに図太い艦娘であろう。ただし、彼女の背後には、鬼だ蛇だと恐れられた戦艦のしごきさえぬるく見えた、と言われたほどに苛烈なしごきをやらかした人物の影響を色濃く受け継いだ艦娘がいるのである。
 であれば――
 
「ぼやっとしない!!」
「ひゃ、ひゃい!!」

 それは当然の帰結であった。
 
「ふぅ……」

 飛龍は矢を放つ葛城を見つめながら小さく息
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