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執務室の新人提督
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られていたのだが……この鎮守府ではこの調子である。
 一人では寂しかろうと誘われるほどに、彼女達の距離は近いのだ。
 
 提督を想う互いの心が距離感を縮めたのか、あの提督とこの鎮守府に毒されたのか、ここには居ない山城も特に苦手意識や対抗意識を持っていないのだ。むしろここに居ない山城に対して、ここの艦娘全員が対抗意識をもっている訳だが、それは仕方がないことだろう。
 彼女の左手の薬指に輝く銀のリングは、羨望の視線を集めるに十分な物だからだ。
 
「その……ホラー、でしょ? 私あぁいった物は少し苦手で……」

 山城が執務室で行うホラー鑑賞会の話だ。
 普段アットホームな作品を駆逐艦娘達と一緒に見る扶桑にすれば、ホラーなど到底見れた物ではない。伊勢は、あの妹と一緒ならそれだけでホラーへの耐性がつくのではないか、などとも思ったが流石に口にすることは控えた。ちなみに、榛名と日向も伊勢に倣って口にはしなかった。口には。

「それに、山城は提督の第一旗艦、でしょう? 二人っきりの時間を姉であるから、と邪魔するのも悪いから……」
「ふむ……山城は良い姉を持ったな」
 日向は悪戯っぽい目で自身の姉、伊勢を見た。視線を受けた伊勢は妹と同じような目で口を開いた。
 
「へー、私の姉妹は榛名だけだから、日向の姉なんて知らないなー」
「え、榛名ですか?」
「そうそう、はるなねーさん」

 伊勢は榛名に抱きつき、榛名は目を瞬かせていた。が、暫しの後嬉しそうな笑みを浮かべ伊勢を抱き返していた。榛名にとって霧島は妹に当たるが、あくまで双子の妹だ。純粋な姉扱いをされている訳ではない。ポーズとはいえ甘えてくる伊勢が嬉しいのか、榛名は満面の笑みである。
 
「うーん、伊勢かわいー! かわいいかわいいー!」
「あぁ……貴方やっぱり金剛の妹ねぇ……」
「まぁ、そうなるな」

 扶桑と日向の前で、榛名は伊勢の頭を撫でながらハグしていた。その姿は彼女の姉である金剛によく似ている。というよりも、榛名にとっての姉像とは金剛なのだろう。
 
「これはこれで新鮮かもねぇ」

 されるがままの伊勢は、マイペースにそう言った。日向の姉らしいとも言えるし、日向が姉に似た部分ともいえるかも知れない。
 
「……そう言えば、貴方達同じ造船所生まれだったかしら……?」

 扶桑の言葉に榛名はハグをやめ、伊勢も榛名の腕の中から離れた。
 日向がティーカップをテーブルに戻し、僅かに唇を湿らせてから扶桑の疑問に答える。
 
「榛名と伊勢は神戸川崎造船所生まれだな。特に榛名はそこで最初に生まれた純国産戦艦だ」

 あぁそういえば、と伊勢と榛名は互いの顔を見た。ついでに、日向は三菱造船所――現・三菱重工長崎造船所生まれであり、扶桑は呉海軍工廠生まれだ。

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