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執務室の新人提督
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誰もがいったい誰を脳裏に描いたのだと慄いた。そして自然、答えを知っている様子の加賀に目が向いた。

「……で、誰だ?」
「……簡単でしょう?」

 加賀はゆっくりと口を開いた。
 
「提督」

 その言葉に、皆は一瞬首をかしげ、暫し思考に沈み――顔を青くした。
 極楽トンボの凡人提督であるが、それゆえに艦娘達は彼の怒り狂った相など知りはしない。知りはしないが、想像は出来た。普段おとなしい人ほど、一度火を吐けば恐ろしいものだ。それは、人も艦娘もない。そう、ないのだ。
 極楽トンボの、凡人が、どの様に火を吐き、どのような言葉をたたきつけるかなど、誰も確りと描けはしない。
 しかしそれでも……
 
「なるほど……これは……駄目だな」

 長門などは、提督の怒った相をまず脳裏に描けなかった。描けなかったが、それより二つ三つ下の相は想像できてしまった。落胆、失望、そんな相の提督だ。彼女はそれだけでもう駄目だった。建造され、まみえ、提督の指揮の下海上を奔った。特別海域よりも通常海域での火力として期待されていた長門は、当然とその期待に応え、応えた分寵愛も得た。触れなくても、語り合えなくとも、だ。その存在が自身に価値を見出せない、裏切られた、そんな相を見せただけで、長門の足元は簡単に瓦解した。立ち位置が崩れさり、ただ自身の意味がなくなった事だけが長門にははっきりと分かったのだ。
 ただの想像一つで。
 
「私も……長門と大淀の挙げた人選に文句はないわ。でも、これはまず提督に話すべきよ。後でうらまれ、怒られてもいいというのなら……どうぞ。ただし、私は知りません」

 加賀の言葉に、皆一斉に頷いた。いや、一名を除いて。
 
「まず、嫁艦は一人でいいと思わないの……?」
「あなた、提督を普段から労わっていて?」

 加賀の言葉に、山城は黙り込んだ。少なくとも、山城に癒し要素を見つけるのは難しい。
 そんなことは当人も一応理解はしているのだ。
 
「普段からホラージャンルを鑑賞しているなら、偶には料理番組なども見たいでしょう、提督も」
「なに、ホラージャンルって何……? 私そういう扱いなの?」
「分かりました、もう少し表現を提督よりにしましょう……貴方リ○グとかで井戸の中から這い出ていなかったかしら?」
「なにそれ……私ホラーとか怖くて見ないんだけど……」
「あなた自身がホラーなのに?」
「やだ、姉さま私いま凄いナチュラルに喧嘩売られてるわ……そ、そんなに私ホラーなの……?」

 加賀は、いや、誰もが山城から目を逸らして黙り込んだ。周囲の反応を目にした山城は、再び俯き親指の爪を噛み始めた。
 
「不幸だわ……」
「本当は幸せなくせに」

 山城の左手の薬指にある銀色の光を見ながら、誰かがそう言った。
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