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執務室の新人提督
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的行動で翻弄していい相手ではないでしょう? それに、私達だけ納得しても仕方ないのではないかしら?」

 アドバンテージ、イニシアチブ。そういった物を握って向こうに回すべき相手ではないと、加賀は言ったのだ。たとえそれが守る、癒す、そういった目的であっても、片方だけで話を通せばただのわがままにもなるからだ。その言に、長門は眉を顰めた。
 
「……言ってはなんだが、あの人は本当に凡庸だぞ。今決めてしまえば、後々有利に事を運べるじゃないか。それが、追々あの人の為になる筈だ。戦力の増強にもなるのだから」

 加賀は、長門が口を動かしてるその間も、じっと相手の目を見ていた。その加賀の目には、長門の瞳の奥底に宿る猛る炎が見えていた。鎮守府のまとめ役、艦娘のトップ、常に自分を殺して皆の意見を拾う、そんな長門らしからぬ情が、加賀にはよく理解できた。ここに来て、語り合う事が出来た、触れ合う事が出来た、愛する事も、愛される事も可能な現状が、今が、彼女を曇らせ焦らせている。加賀は長門からわずかばかり視線を外し、初霜を見た。見られた初霜は、苦笑いで頷くだけだ。

 ――この場で提督に対して冷静なのは、初霜と私だけね。

 どちらかと言えば内では激しやすい加賀は、自身がここで冷静な事を不思議な物だと思いながら、溜息交じりの声を上げた。
 
「例えば……」
「?」

 怪訝そうな長門を無視して、加賀は続ける。
 
「この場にも数名居るけれど、絶対に怒らせてはいけない艦娘が居るでしょう? 高雄、古鷹、妙高、龍驤、鳳翔、吹雪、初霜、那珂、赤城さん、扶桑……この辺りは鉄板かしら」

 実際、この面子は鎮守府における各艦種代表であり相談役のようなものだ。そして普段おとなしく、また笑顔ですごすがゆえに切れにくい。が、何かの間違いで一度切れれば容易な事では止められないのである。また、名は挙がっていないが神通や阿武隈は自身の感情のコントロールに長けており、海上と陸上での切り替えがスムーズに行える為、怒らせてはいけない、という艦娘の中には入らない。ただし、訓練中の神通に近づくな、護衛中の阿武隈に触れるな、という暗黙のルールはある。
 
「さて……代表として一人……そうね、妙高」
「はい?」
「あなたに聞きたいのだけれど、あなたなら、この鎮守府で誰が一番、怒らせたら怖い?」

 問われた妙高は加賀をじっと眺めてから、長門に目を移して俯き……暫し黙った後、口元に手を当てて肩を振るわせ始めた。そんな妙高を長門は黙って見つめ、加賀は小さく頷いて
 
「あなたが一番怖いと思った人、長門に伝えても?」

 言った。隣の高雄に背を撫でられていた妙高は、真っ青になった相で頷いた。
 艦時代を含め、この鎮守府でも燦然たる武勲を持つ歴戦の艦娘が見せた青い相である。
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