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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第3章 黄昏のノクターン  2022/12
30話 無音の追跡者
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 街の住人(NPC)の活動は次第に活発になり、ロービアは早くも喧騒に包まれる。クエストが進行したことによる変化か、それともこの主街区を陰から統べる組織と手を組んだ恩恵か、昨日のような挑発行為は途端に鳴りを潜めたが、それは俺達が水運ギルドに警戒されているという事実の裏返しなのだろう。平和な水路という、この街の景観を最も美しく彩るシチュエーションは、しかしコルネリオから請けたクエストの進展さえ遠ざけてしまっていた。

――――先ず手始めに、水運ギルドについて探りを入れてみてくれ。情報を手に入れてくるんだ。
――――情報はどんな些細なものでも構わない。どこから真実に繋がるかも分からんのだからな。
――――……ただし、彼等との間に波風を立てることだけは避けてくれ。今はその頃合いじゃないんでね。

 コルネリオの台詞を脳内で再生しつつ、宛てもなくゴンドラを漕ぐこと数十分。そもそも水運ギルドの船さえ姿を見せない状況では足で情報を稼ぐなど出来るわけがない。一旦諦め、クエスト失敗までの制限時間がなかったのを良い事に休憩を決め込むことにする。


「………で、探ろうにも相手がいなきゃ何も分からないんだけど、どうしたもんかね?」


 ちょうど最寄りに建っていたレストランに立ち寄り、席に着くなり()()で出された水を飲みつつ、リゼルが溜息混じりに呟く。


「どうにも、水路を移動していて一艘とも擦れ違わないというのはおかしな話だろう。いくらなんでも遭遇率の下がり方が極端だ」
「ホントね。ここまで嫌われると、クエストとはいえ良い気分にはならないわ………」


 背凭れに身体を預ける俺と、頬杖をつきながら項垂れるクーネが後から続く。しかし、ひっそりと存在していた造船クエストから、価格変動という特異なイベントを経て発展したこのクエストは、ここで投げ出すには惜しい。それだけの魅力を秘めているように思えてならないのだ。
 未だにクエストはスタートしたばかり。意外な見落としがありそうなものだが、どうにも思いつく解決策もない。一応は細い水路に隠れて、水運ギルドのゴンドラが通りかかるのを待ち伏せしたり、空の木箱を作っていた作業場に向かったりと手を尽くしてはみたのだが、どうにも成功する気配さえないまま時間が過ぎてしまい、諦めてしまって今に至るのである。作業場に至っては《蛻の殻》という有り様だ。或いは、もっと別の手段を要するのだろうか。姿さえ捉えられない相手に手段も何も無いように思えるが。


「ねー、もういっそのこと街の人から水運ギルドの本拠地みたいな場所を聞き出して直接行かない? ボク、結構飽きてきたよ?」
「それはやめてくれ。クエスト失敗の条件に触れかねない」
「えー……なんでさ? ……お邪魔しますの一言で済みそうな感じでしょ?
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