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乱世の確率事象改変
気付く不和の芽、気付かぬ不調
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流れて行く。二人の軍師が、穏やかな場所に戦を作り上げながら。

「む……」

 幾重、ぴたりと冥琳が止まる。
 先程よりも勝敗の分かり得ない碁盤の上で、勝負は最後に並べ直して分かると亞莎が考えていた直後のこと。

「一目半、ですね?」
「……そのようだ」
「えっ……えぇっ?」

 それほど細かかった勝負を、二人の軍師は数手残して読み切った。それもまた力量故に。
 後は消化試合だと言わんばかりに朱里が冥琳の代わりに石を並べ、冥琳も黙ってそれを見ていた。
 勝敗は彼女達の言う通り、冥琳の負けであった。

「ありがとうございました」
「いや、こちらこそ。久しぶりにいい碁が打てた」

 すっと差し出された手を握り合って、彼女達は笑う。穏やかながらも何処か気の置けないような空気を出しながら。

「まさか亞莎との碁を見ていたのに負けるとはな」
「いえ、私もまさかあれから此処まで持って行かれるとは思ってもいませんでした」
「道筋を覆せたようで何より、しかし……さすがは伏竜、と言うべきか」
「では私も、さすがは猛虎と」

 感嘆の吐息を吐き出して、亞莎は盤上を未だに見やる。自分では作り得ない戦絵図が其処にある。つまりは……彼女達にはまだ届いていないということ。
 ハッと気づくと胸に湧く悔しさが湧いてくる。持つ者達に嫉妬もする。だがそれよりも、不甲斐無い自身に憤る。

「思考訓練にはいいですけど所詮は盤上の遊戯ですよ、呂蒙さん。本物の戦はもっと不可測に満ちていて、たった一手で戦況が引っくり返ることも有り得るんですから」
「それは……そうですが……」

 しょんぼりと落ち込んだ。長い服の袖が肩につられて可愛く垂れる。その様子が愛らしくて、朱里も冥琳もクスクスと小さく笑う。

「ふ……こんなちっぽけな盤上では戦は表現しきれない。そんなに落ち込むなよ、亞莎。お前は……」

 一寸だけ言っていいモノかと悩んだが、朱里が目を瞑って頷いたのを横目で見て、冥琳は一つ息を落とした後、言葉を続けた。

「……黒麒麟との戦で絵図を遣り遂げただろう? だから胸を張れ」
「っ……はい……」

 あの時、あの徐州で、一番の狙いは叶わなくとも、必要なモノは全て抑えた。
 彼女が提案した戦絵図の通りにことが進み、例え黒麒麟がわざと見逃したとしても、利は確かに得たのだ。
 静かに、また朱里がお茶を啜った。

「……次の手はなんでしょうね?」
「……?」

 桜色の唇から零れた言葉に、二人は首を傾げた。
 目に入った朱里の表情は、うっとりと頬を染め上げ、愛しきモノを待つかのよう。
 冥琳も亞莎も言葉を失った。

「その次の手は? その次、その次は? 一つ一つと積み上げて、彼には何かが見えているのでしょうか?」
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