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剣の丘に花は咲く 
第四章 誓約の水精霊
第八話 闇からの誘い
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だと首を微かに振り否定しながら、声を上げる。

「誰ですか? こんな夜中にどうかしたのですか?」

 椅子の背に掛けたガウンを羽織ると、ゆっくりと扉に近づいていく。こんな夜更けに来るとは、また何か問題が起こったというのだろうか? また、わたしに背負わせるの……。

 ぐるぐると嫌な思考が頭を周り、返事が返って来ないことに苛立ちながら、先程よりも乱暴に扉の向こうに声を――。

「アンリエッタ」

 返ってきた声は、聞こえるはずのない声であった。

「ま、まだ、夢の中にいるのですね……い、嫌だわ……こん――」

 声が震える。寒くもないにもかかわらず、ガタガタと身体が揺れる。
 しかし、心臓は激しく胸を打ち、血が音を立て全身を巡る。
  
「僕だよアンリエッタ」

 息を飲み……呟く。

「ウェールズ様」




 扉の向こう、そこには、何度も夢に見た人……ウェールズの姿。

「な、何故? あなたは、死んだと」
「死んだのは、影武者だよ。信じられないのもしょうがないか……なら、証拠を聞かせてあげよう」
「え」

 そっと、ウェールズが頬に触れる。
 震える顔を、ゆっくりと上げると、耳にそっと囁かれる。

「風吹く夜に」
「……ああ」

 ラグドリアン湖での密会で、何度となく聞いた声……言葉……そして、笑顔。
 涙が流れる。
 それは、先ほど流した涙とは違う。
 嬉しくて、ただ、ただ嬉しくて……。

 両手を広げるウェールズの胸に飛び込み、しっかりと抱きしめる。胸元で声を上げ泣き出したアンリエッタの頭を、ウェールズが優しく撫でる。

「泣き虫なところは変わらないね」
「そ、そんな、こと……だってっ、ぅあ……生きてい、たら、なぜ、もっと」
「すまない。敵に見つからないよう、ずっと隠れていたんだ。そして、つい数日前、やっと君のいるこのトリスタニアまでやって来れたんだ」

 ウェールズがアンリエッタの身体に、優しく手を回すと、そっと抱きしめる。アンリエッタは、それに答えるように、自身もウェールズの身体に手を回す。

「お辛かったでしょう。でも、ご安心ください。アルビオンにこのハルケギニアを攻め込む力は既にありません。ここにいれば、ウェールズ様に指一本触れさせはしません。だから、ここに――」
「それは、だめなんだ」
「え?」

 喜色を浮かべると、ウェールズは見上げてくるアンリエッタの唇を、人差し指で塞ぎ、ニッコリと笑い掛け。アンリエッタの提案を静かに却下した。戸惑いの声を上げるアンリエッタに、逆にウェールズが提案した。

「レコン・キスタからアルビオンを開放するため、僕はアルビオンに戻らなければならない」
「そんなっ!?」
「その時……君が傍に居て欲しい
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