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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第3章 黄昏のノクターン  2022/12
24話 船匠の願い
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恨むとしよう。期待と不安が半々くらいの心持ちで扉をノックすると、数秒空けたところで返答が飛ばされる。


「鍵はかかっとらん。用があるなら勝手に入れ」


 重く低く、しわがれた声に従うかたちでドアを開き、建物の中に入る。
 ベータテストの頃と同様に室内は物で溢れ、その中に老爺が一人佇んでいるといった様子だ。酒とパイプを節くれ立つ手で握り、胸板や腕の逞しさを見る限り、好々爺などというカテゴリーには収まらないであろう彼は、横目でこちらを鋭い眼光で一瞥するや否や、フンと鼻を鳴らして酒瓶を勢いよく呷った。
 後ろではクーネ一派とティルネルが小声で物議を展開、そして間もなく彼女達は何かを見出したのか、代表となったクーネがNPCの前に踏み出す。立ち聞きした彼女達の話し合いの内容から察するに、誰が先にアプローチを掛けるかという《譲り合い》だったらしい。ここまで来れば誰に先を越される事もないので、彼女達の奮闘を見届けてからでも遅くはないだろう。個人的に興味がある。


「お爺さん、何か困っていませんか?」
「困っとらん。用がないなら出ていけ」


 不機嫌な表情を更に険しくした老人は、人当たりの良い笑顔で問う赤髪の少女の優しい問いかけをすげなく躱し、追い打ちをかける。当然、クエストアイコンに一切の変化は見受けられない。要するに、この浮遊城に多く存在する《悩みを解決する》ようなクエストではないわけだ。恐らく、このクエストを受領するには何らかのキーワードが必要なのだろうが、どうも情報が足りない。一足飛びに進んでしまった弊害がこんなところで現れるとは思わなかったが、恐らくはクーネ達の足掻きがヒントに繋がるかも知れない。
 その後もクーネは暫く粘り、終いには話し合いに参加した全員が束になって考え得る対応を試みたが、ロッキングチェアの肘掛けに酒瓶の底を叩きつける老人の無言の圧力によって、クーネ一派の敗北が決定した。十数分にも渡る舌戦は不毛な結末に終わり、未だにスタートラインに立っていないのだから哀れである。完全に硬直するクーネ達を後目に、今度はヒヨリがNPCと対峙する。


「おじいさんは、お船を造るお仕事をしてたの?」
「………もう昔の話だ。今はやっとらん」
「お願いしたら、造ってくれる?」
「生憎だが、叶えてやれそうにもない。船の材料は何から何まで水運ギルドに独占されちまってな。おかげで同業の連中は全員廃業しおった」
「材料があれば、お願いできるの?」
「フン、どうだかの。お前たちみたいな若造にどうこうできるもんでもなかろうが………用がないならとっとと………」


 帰れ、と。白い蓬髪の老人がクーネ同様に一蹴するかと思われた瞬間、ヒヨリはロッキングチェアの肘掛けの端に手を置き、老人の顔へと一気に詰め寄った。面食らった老人はパ
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