序章
妖精の尻尾 《前》
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水晶玉が転がる。
滑るように転がるそれが、誰にも触れられていないのにも拘らず突如割れた。けれど、その数秒後には何事もなかったかのように、あるべき姿である綺麗な球体へと戻る。
それはまるで、水晶の時を戻したかのようだった。割れた水晶の欠片の1つも残さずに、しかも触れずに元ある姿に巻き戻す―――ただの修繕ではこうはいかないだろう。
「ウルティアよ、会議中に遊ぶのはやめなさい」
見かねた1人が、ウルティアと呼ばれた黒髪の女性を窘める。
しかし、本人たるウルティアは自らの腕の上で転がす水晶玉の動きを止めず、妖艶そうな笑みを浮かべたまま、水晶玉を転がして頭に乗せた。
「だってヒマなんですもの、ね?ジークレイン様」
「お―――、ヒマだねえ。誰か問題でも起こしてくんねーかな」
語りかけられた青髪の青年―――ジークレインは椅子に踏ん反り返って座ったまま、どこか挑発するような笑みを湛える。
不謹慎な発言とだらけた態度、その両方に、会議に参加する厳格な姿勢の他7人は眉を吊り上げた。
「つ…慎みたまえ!!」
「何でこんな若造共が評議員になれたんじゃ!!」
「魔力が高ェからさ、じじい」
「ぬぅ〜!!!」
怒鳴りつける老人達に対し、ジークレインは笑みすら崩さない涼しげな顔で言葉を返す。
確かにジークレインの魔力は高いし、それを見込まれて評議員十席の1つに腰かけている。けれど彼は性格に難があるようで、魔法界全土の事を話し合って決める会議にはどうにも不向きなのだった。だからといって彼の代わりになる人間が今すぐ用意出来る訳でもなく、そんなあっさりと大事な役職である評議員を取っ替え引っ替えする訳にはいかないのだが。
「これ……双方黙らぬか」
ジャラ、と杖の装飾が音を立てる。その重みのある一言で老人達は引き下がり、対するジークレインは態度を崩さないまま口を閉じた。
ここにいる10人の中で1番地位が高いのであろう老人はジークレインの態度には触れず、予定通りの議論を進めるべく口を開く。
「魔法界には常に問題が山積みなのじゃ。中でも早めに手を打ちたい問題は……」
場の空気が、冗談もふざけも許さないものへと変わる。その次に続く言葉をなんとなく全員が理解しながらも、全員が議長の言葉を待つ。
そして議長が口にしたのは、予想通りに―――何度も何度も議論を繰り返して、それでも結局何も解決しないままの名前だった。
「妖精の尻尾のバカ共じゃ」
フィオーレ王国。
人口1700万人の永世中立国で、その王国内に港街ハルジオンはあった。
魔法が盛んな中、この街は漁業に力を入れている。だから港に行けば船があちこちに泊まっているし、街に出れば漁師や商人など人で溢れ返っている訳
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