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SNOW ROSE
騎士の章
I
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 その男は、遠い異国の地から渡って来たのだと言う。
 以前は傭兵などをしていたが、雇い主であった国王が暗殺されたため職を失い、各地を転々と職を変えながら旅をして海を渡ったのだと。
 背はかなりの長身で、髪は赤茶けた色をして長く、後ろで一括りにしている。瞳は澄んだエメラルドのようで、この大陸には珍しかった。
 男の名はマルス。今はプレトリス王国南端にある海辺の街リリーで、用心棒として宿屋“ゴールトベルク”に雇われていた。
 彼は南の日当たりの良い部屋をあてがわれ、かれこれ半年近くもそこに滞在していたのであった。
 用心棒とは言うが、ここは戦が数十年も起こらぬ閑かな土地であり、これと言って用心棒など必要とはしていなかった。
 しかし、流れ者には少しばかり冷ややかな土地柄であったため、宿の主人が名ばかりの用心棒として雇ったのであった。
 この主人であるベルクは以前、東の大国モルヴェリで金山の坑夫として働いていた。それ故、彼のことを放ってはおけなかったようである。
 そんなベルクの宿故に“ゴールトベルク”…即ち<金の丘>と言う名が付けられたのだった。

 さて、マルスの仕事はと言うと、それは雑事全般に及んでいた。
 そもそも肩書きが“用心棒"なだけで飯が食べられる程、そんな甘い世の中ではないのだ。だからと言って強制されるようなことはなかったのであるが、マルスは率先して多くの仕事をこなした。
 彼は長い間一人で旅を続けていたため、その料理の腕はプロ顔負けになっていた。それに掃除はマメな方であり、宿の食堂から客室の整理までやっていたのだった。
 自然に身に付いた力には申し訳ないが、それはそれで淋しいものがある…。

 もう一人紹介せねばなるまい。
 この宿の娘、アンナである。
 このアンナも料理は得意であったが、それ以上に自身も好きな菓子を得意とし、この宿の名物にもなっていたのであった。
「はい、ガレット三袋ね。いつもありがとう。」
 そう言って微笑み、アンナは常連の老婆に手渡した。
「孫が好きでのぅ。ここのじゃないとダメだってさ。私も好きだから余計に買っちゃうんだけどねぇ。それじゃ、また来るね。」
 菓子の包みを大事そうに抱えながら、老婆は笑って店を出て行った。
 ここは食堂の一角を菓子売り用に作り直した場所である。そこから中を見ると、客が十五、六人テーブルに着いているのが見える。
 昼食時なのだ。
これからまだ客が増えてゆくのである。
「マルス、野菜が足んねぇから、ちょっとヨッシュのとこ行って買ってきてくれ!」
 厨房からベルクの声が聞こえてくる。どうやら食材が足りなくなったようだ。
「分かった。青物とトマト、ポテト、コーン…そんなとこか?」
「ああ、そんなもんでいい。あと、何か良さそうなもんがあったら一緒
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