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SNOW ROSE
兄弟の章
W
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 レストランでは、男爵家の葬儀後の会食が行なわれていた。
 男爵も各々の客も、出された料理には満足してくれたようである。
 しかし、ここで思わぬアクシデントが起こってしまった。
「誰ぞ、音楽を奏でられる者はおらぬか。」
 ここはレストランである。予め言っておけば楽団も雇うと言うものだが、今日のこれは違う。全く以て想定外のことであった。
「申し訳ないが、今日は奏者を呼んでおりませぬ。」
 オーナーのサンドランドは男爵の前に出て、苦笑いをしながら男爵に告げた。が、どうにかならんのかと駄々を捏ね始めた。
 酔いもあるが、元来そういう気質なのであろう。
 サンドランドは仕方なしに厨房の中に行って、誰か楽器が出来ないかと問ってみたのであった。
 勿論のことながら、誰も名乗りをあげることはしなかった。そこにいるのは料理人だけだったからだ。
「困ったなぁ…。」
 サンドランドが苦笑いしながら厨房を出ようとした時。
「僕が遣ります。ホールに飾ってあるリュートを貸して頂ければ。」
 そう言ったのはジョージだった。
 傍にいたメルデンは目をパチクリしている。
「先輩…音楽なんて出来るんですか!?」
「少しね。」
 ジョージは仕方ないといった風にサンドランドの下へ行った。
「どんなものでも構わない。あいつは言いだしたら聞かなくてな。この分は賃金に上乗せさせてもらうから、数曲遣ってくれ。」
「分かりました。」
 サンドランドはホッとした表情で、ジョージと共に厨房を出てホールに入った。
 サンドランドはホールの飾り棚からリュートを取出し、そのままジョージに手渡した。
「随分長いこと手入れはされてないが、大丈夫か?」
 不安げに聞くサンドランドに、ジョージは笑って答えた。
「ええ、大丈夫です。弦もしっかりしてるし、調律に少し時間を頂ければ平気です。」
 そう言うや、ジョージは十三本の弦の調律をし始めた。
 サンドランドは男爵の所へ行ってジョージが演奏することを伝え、彼の調弦が済むのを待った。
 数分後、調律を終えたジョージは客の前に進み行き、軽くお辞儀をしてから用意されていた椅子に腰を下ろした。
 周囲から騒めきが起こり、直ぐに静かになった。この幼さの残る青年が、一体…どのような演奏を聞かせてくれるのかという好奇心からだろう。
 ジョージは一先ず、誰でも聞いたことのある舞曲を演奏した。メヌエットやジーグなどの小品を幾つか奏し、その技術が本物であることを証明した。
「まだ十七か八程であろうに。ここまでとは…。」
 フォールホルスト男爵のみならず、客や厨房の料理人一同をも彼の演奏に感嘆の息を洩らした。
 そうして舞曲を演奏し終えたジョージは、最後に歌曲を披露した。
 その歌曲は、葬儀などでもしばしば演奏された馴染みの深い
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