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SNOW ROSE
兄弟の章
W
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られように。」
 男爵は不思議そうにジョージを見つめたが、ジョージは寂しげに笑って首を振った。
「それは出来なかったのです。私たちを死んだことにしたのは、伯父達だったからです。もし、それを王が知ったならどうなりますか?そんなことより父だったら、全て財産を奪われたとしても心豊かに生きろと言ったと思います。あれ以来、祖父母の下に身を寄せておりましたが、今はこの店で働かせて頂いております。お気遣い有り難いとは存知ますが、どんなに苦労しようとも、皆で生きていさえすれば私は幸せなのです。」
 ジョージは男爵にそう言うと、またリュートに手を掛けた。
 美しい響きが再び空間を満たした。
「ファンタジアか…。」
 今度は亡き父を偲んでか、ジョージが演奏しているのはマルクスのものであった。
 切ない旋律が幾度も繰り返される変奏形式によるこの幻想曲は、マルクス・レヴィンの代表作にも数えられる程の名曲だった。
「なんと美しい…。そうであったか。さぞ辛い思いをしたであろう…。」
 人々はその甘美な響きに酔い痴れ、そして深い感銘を与えられた。
 暫らくの間は閑かであったが、その後、嵐のように拍手が響き渡った。
 ジョージはこれで話しは終わりという風に男爵を見上げた。
 しかし男爵は、何やら考え込んでいる様子で「暫し待て。」と言い、自ら厨房へ足を向けた。
 暫らくの後、男爵はサンドランドと共にジョージの前にやってきてこう告げた。
「ジョージ・レヴィンよ、汝を今よりフォールホルスト家の楽師長に任命する。任命状は明後日正式渡すゆえ、我が館を訪れよ。これより後、汝はその身分もて演奏に対し報酬を受け取ることを許可する。」
 それはまるで宣言のようであった。
「男爵様、それは…。」
 ジョージは男爵の言葉に慌てふためいた。
 楽師長になるということは、実に名誉なことではある。しかし、普通は楽団員から上り詰めるか、名のある楽師に師事して数年修業し、それに見合った力量に達してから推薦されるのが一般的だ。
 ジョージのこれは、それから見ても普通でないことは理解出来よう。
 そして何より、楽師長とは常に使える主人の下に居なくてはならない。それは、この店を辞さねばならぬということでもあった。
「私はこの店ですら見習いの身。直ぐに職を辞せと申されましても…。」
「案ずるな。汝の仕事は月に一度、我が館で演奏することだけだ。」
 男爵の後ろでは、サンドランドが笑っている。
「男爵様、それでは楽師長の名に傷が付いてしまいまゆえ、どうか御撤回下さりますよう…」
「ならん!」
 フォールホルスト男爵は、相当ジョージのことを気に入ったようである。何回かこのやり取りが続いたが…到頭ジョージが根負けしてこう返したのであった。
「…謹んでお受け致します…。」
 このジョ
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