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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
64話
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腰を下ろした。
 肩と肩が触れるくらいに近い。鼻からさわさわと抜けていく彼女の幽かな淡い吐息の音、身体のどこかからゆっくりと滲み出てくる彼女のねっとりした甘い薫り。確かに重さを持った彼女の存在に、クレイはそれだけで欲情と安堵をぬけぬけと感じていることを理解した。
 いつかもこんな時があった。もう何か月前だったか―――わざとらしくそれを考えようとして、クレイはふとそれが思い出せなかった。
「なんか」空を仰いだまま、銀髪の少女の頭がふらふらと揺れる。「前にもこんなことあったね」
 あったね、と色のない声で応える。身体の表皮が受け答えしているその感覚、皮相と秘奥の間に固く薄い膜が出来てしまったような感覚を、奇妙なほど客観的に感じていた。
 彼女がクレイの肩に頭を預ける。そうして左腕をクレイの右腕に絡ませ、そのちっちゃいドールのような手のひらをクレイの無骨な手の甲の上に重ね、その指先が擽るようにいんびに撫でる。 お世辞にも大きいと言えない彼女の手、その指がクレイの地面に着いた手の指の間にじっとりと這っていく。
 肘の辺りに感じるふんわりした、奇妙な重たい軽さを孕んだ存在。ジャケット越し、シャツ越し、ブラ越しでもわかるその感覚に、クレイは心臓の拍動の激と原-セックスの器官の強張りを直情的に感じた。
 クレイは、小さく首を振るので精一杯だった。その仕草に、どうしたの、とエレアが不思議そうな顔を、少しだけクレイの方へ向けた。
「僕にはそうする権利はないんです」声は酷く掠れ気味だった。
 彼女の指が微かにクレイの指を強く握る。ただそれだけで、言葉を発することも何もしなかった。
「今僕はしたくてたまらないんですよ。抱きたくてたまらない、セックスがしたくてたまらないんです」
 彼女が身動ぎする。そうなの、と一言だけ疑問の構造の言葉をぽつりと口にした。どこか恥ずかしげなような声なのが、一層心臓を締め上げた。
「でもきっとそれは貴女である必然性は無いんです。誰でも、良いんですよ―――前に穴があれば何でも、良かった。僕はそういう人なんですよ」
 実際、最近会った知り合いとした時は良かったんですよ―――まるで他人事のように音声が耳朶を打つ。ずきずきと身体中が軋み、頭が焼き切れそうになる。ぐにゃりと歪んだ胃がありもしない内容物を吐き出すように脅迫する。
 知らず、地面に爪を立てていた。ごつごつとした感触が爪の中に入り、不快さだけが神経を撫でつける。
 彼女の手の感触が消えていることに気づいた。恐れにも似た空虚さのままに顔を上げれば、立ち上がった彼女がお尻を浚うようにしてごみを落としていた。
 行ってしまうのだ、と思った。腰椎まで届く綺麗な銀髪を揺らして、彼女は勃起したままのクレイを置き去りにして、行くのだ。
 良いのだ、と思った。悪のエビデンスは確かにク
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