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藤崎京之介怪異譚
case.5 「夕陽に還る記憶」
Y 3.8.PM9:22
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ネさんや、お客様が来られたから、お茶を頼むよ。」
 佐吉さんが奥へ向かってそう言うや、奥から一人の女性…と言うより老婆だが…が玄関先へと姿を見せた。
「ようお越し下さいました。奥の方へお上がりくださいませ。」
 カネさんと呼ばれたその老婆は、俺達にそう言って会釈したので、俺達もそれに返した。
 カネさんは何やら嬉しそうに奥へと戻って行ったが、来客が何人かを知りたかったんだろう。恐らくは、この米山家で働く家政婦といったところだろうな。だが、何であんなに嬉しそうなんだ…?
「いやぁ、来客なんてのは久々でのぅ。カネさんも喜んどるようじゃなぁ。」
 佐吉さんはそう言いながら、俺達を中へと招き入れてくれたのだった。
 米山家は内側も勿論広かったが、その全てが美しく磨かれていて、その中には、過ぎ去った歳月の重みを感じ取ることが出来た。案内された部屋は洋室だったが、その部屋も例外なく、気品と風格を感じさせるものがあった。
「こんなあばら家に洋室なんぞと思うたかも知れんが、こりゃ爺様が作ったもんじゃ。」
「すると、この洋室もかなりの年月を経ていると?」
「そうじゃのぅ…もう百年は経つかのぅ…。爺様が道楽で作らせたと聞いとるが。」
 佐吉さんはそう言って笑っていたが、一体どれ程の金持ちだったんだ…?柱なんかには洋風な彫り物までしてあるし、床の材質だってかなりのものだ…。いや、考えないようにしよう…。
 俺達は長いソファーを勧められ、そこに腰を落ち着けて暫くは世間話をしていた。そこへノックの音がして、さっき玄関で会ったカネさんがお茶を持って入ってきた。
「どうも、お待たせ致しました。」
 カネさんが持ってきたものは、どう見ても高価なティーセットと、彼女が焼いたであろうパウンドケーキとアメリカンチェリーのタルトだった…。外観からは想像もつかないものが出てきたため、俺達は初めはギョッとした。それを察してか、カネさんは可笑しそうに笑い、佐吉さんもそれを見て一緒に笑い出した。
「カネさんや、またやりましたなぁ。」
「はい、旦那様。」
 どうやら…他の客にもしているらしい…。全く、茶目っ気たっぷりのこの二人には、俺達ですら笑わずにはいられたなかったのだった。
 さて、美味しいお茶を頂いて後、俺達は本題へと入ることにした。
「で、先日お話していたことなんですが…」
「おお、朝実嬢ちゃんのことじゃったな。ありゃ…可哀想なことをした…。このカネさんも、一時期は嬢ちゃんのとこで働いとったんじゃが、昭和の初め…何年じゃったか覚えとらんが、嬢ちゃんが結核にかかってしもうてな。カネさんも嬢ちゃんと離され、小野家の推薦でここに奉公へ上がったんじゃ。嬢ちゃんが亡くなったという知らせは、カネさんがここへきて暫くしてから届いたんじゃよ。」
 今でも結核は怖いが、当時と
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