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珠瀬鎮守府
柏木提督ノ章
戦闘指揮所
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 無線の先で散る命に手が届くことはなく、最期に見た顔が泣き顔だった者もいた。数多の命がこの海で果て、そうして幾多もの深海棲鬼を生んだ。しかし、彼女達の奮戦は功を奏し、人類は今や優位の元に立つ。それには散った幾千万もの英雄がいたから。それに比べて私という存在はどれ程矮小か。この手に掴んだものは何だったか。学に励み勤勉たる青年期を過ごし、築いたものはなんだったのか。今となれば築いたものが本当にあったのかも怪しい。故に、英雄と同胞なんて烏滸がましい。私が出来るのはその英雄を殺すことと、それを忘れぬ事だけだ。
 だが、私は逃げない。矜持なぞ呼べる物ではない。其処にあるのは情けなさと現実主義だ。私が逃げたところで彼女達が救われる事はなく、誰かが代わってより良くなる保証もない。だから殺す。彼女達を死地へと向かわせる。帰りを祈る事はなく、涙を流した(ためし)はない。そうする資格すら私は持ち得ぬ。帰らぬ故は私にあり、その死の責任は私にある。
 私は、提督なのだから。

                 ◇

 二十三時を迎えた珠瀬鎮守府内では、様々な人間たちが忙しなく動いている。私は非戦闘員の撤退を支持しながら指揮所に座っていた。側では鳳翔が卓上に広げられた地図に敵艦隊を示す駒を動かしている。
「第五艦隊最上より交戦開始と連絡が入りました」
 無線手が連絡を私に投げかける。だが、私は既に最上に作戦を言い渡した後だ。私は黙したまま椅子の上に座り続けた。
 そのまま、これといった続報がないまま十数分が経った頃、無線手によってその言葉は放たれた。
「最終防衛線突破されました。湾内に向けて敵艦隊進撃中」
 視界を卓上に移す。敵艦隊は戦艦二空母二重巡一駆逐一。鎮守府内のほぼ全ての艦娘を投入しても撃滅は叶わず。
「抜けたのは」
 無線手に投げた質問の返答は、中々辛い現状を表していた。
「戦艦空母重巡各一。駆逐は撃滅、戦艦と空母の残りは鎮守府正面海域で交戦中」
 漏れそうになった溜息を噛み殺す。戦艦と空母の撃滅はこちらも重巡洋艦を出している為長くはかからないだろう。問題はその時の死傷率とかかる時間だ。奇跡的とも言うべきか、今現在戦線離脱の報は入りしも轟沈した艦娘の報せはない。だが、湾内に敵の侵入を許せば先にこちらの地上員が死にかねない。
「警備課の予備員に対深海棲鬼用の装備を持たせた上でここに来るよう伝えろ」
 頷き、指揮所を後にしようとする鳳翔に私は言葉を投げた。
「伝えた後、お前は非戦闘員と共に撤退しろ」
 私は鳳翔に心のなかですら謝らなかった。ただ同時に、確かに悪いことをしたという自覚はあった。
 鳳翔は無言だった。その異常な事態は、何かをこちらに伝えようと振り向いた無線手ですらその開きかけた口を一度絞らねばならない程だった。命令に忠実であ
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