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藤崎京之介怪異譚
case.4 「静謐の檻」
\ 同日 AM10:43
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は不思議に思って窓から顔を出した。下には、なぜか宿泊客らしき人達が何人も集まっており、今の演奏を聴いていたようだった。仕方無く、俺は数回頭を下げて中へ引っ込むと、今度は呆けている佐野さんと相模、そして山之内氏を解放された空間へ促し、俺はそれを見せて言ったのだった。
「こちらが…三十三年前に失踪した龍之介氏です。」
 そこには白骨化した骸があり、その体は針金で巻かれていた。
「まさか…こんなところに!藤崎君、何で分かったんだ?」
 佐野さんが聞いてきた。相模も山之内氏も、その理由を知りたそうにこちらを見ていた。
「簡単なことです。ずっとここだと示していたんですからね。多分、龍之介氏が最後に願ったことは、誰かに気付いてほしいってことじゃなかったのかと思います。亡くなる寸前、彼の周りには誰も居なかったと考えられますからね。しかし、薄れ逝く意識の中で龍之介氏は、報復も考えたんでしょうね…。身から出た錆びですが、彼には不当だと…多分ですが、自分を殺した人物が死ねばいいと思ったんだと思います。そのため、直接手を下した人物にしか危害が及ばなかったんだと…。」
 俺がそう言うと、佐野さんは頭を掻きながら言ったのだった。
「藤崎君…山桜事件の時もそうだったが、私にはどうも君の言っていることがまるで解らないんだけどねぇ。解りやすく言ってほしいんだが…。」
「山桜事件の時も話しましたが、霊とは、人が亡くなってそうなるものではなく、霊は最初から霊として存在しているんです。霊は人を別の道へと引っ張り込むため、死者の記憶や、その縁の場所に残った記録を利用するんです。今回の場合、龍之介氏の記憶や思いを利用しようとしてこうなった訳ですが、あまりに限定され過ぎていて、大きな禍を起こせなかった。確かに、三人はこの禍によって亡くなってしまいましたが、悪くすれば、もっと多くの死者が出ていたと思いますよ…。」
「もっと多くって…どうしてなのです?」
 俺の説明を聞き、山之内氏が問い掛けてきた。俺は暫し空を眺めてから、静かに答えを口にした。
「霊はある程度の力は使えても、それ以上を自らの意思で使用できないと考えて下さい。力を使うには、何か媒体が必要となるのです。その媒体…と言うよりも、力を具現化するための増幅装置として、死者の記憶や思いを使っているんです。」
 俺はそこで一旦言葉を切ると、窓辺に寄って空を仰ぎ見た。
「ですがこの場合、死者の思いが強い程に、霊の方が耐えきれないこともあるんです。私はそれを“暴走"と呼んでますが、そうなると際限なく力が外へと放出され続け、その力は人間へと刃を向ける…。」
 そこまで言うと山之内氏だけでなく、佐野さんも怪訝な顔をしていた。仕方無いことだが、こういうことは深く関わらないと理解は難しい。だが、こんなことに深く関わらない方がいいんだ…。
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