暁 〜小説投稿サイト〜
黒魔術師松本沙耶香  紅雪篇
19部分:第十九章
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第十九章

 部屋の扉に着くと少女が鍵を開こうとする。しかしそれより前に沙耶香が動いてきた。
「いいわ」
「けれど鍵は」
「必要ないのよ」
 沙耶香は言う。すると扉のドアに手を当ててきた。
「これでね」
「けれど鍵は」
「開いたわ」
 少女に言葉を返した。
「今のでね」
「今のでって」
 それを聞いても信じられない。無意識のうちに首を傾げさせてきた。
「そんな筈が」
「信じないというのね」
 沙耶香はそれを聞いて面白そうに笑ってきた。
「ええ。だって鍵を」
「その鍵を開けたのよ」
 しかし彼女はこう言う。あくまでだ。
「わかるわ。それじゃあね」
「はい」
 半信半疑のまま沙耶香の言葉に頷く。沙耶香は彼女を置いてそっとドアノブに手をやってきた。そしてすっと前へ開けたのであった。
「えっ」
「ほら、言った通りでしょ」
 少女を見て笑いかけてきた。
「私の言葉通りに。開いたわね」
「けれど鍵は確かに」
「だからそれを開けたのよ」
 また少女に対して述べた。
「どうやって」
「魔法よ」
 くすりと笑って言ってきた。言いながら少女の目を覗き込む。
「魔法でね。開けたのよ」
「そんな。魔法だなんて」
「それがね。あるのよ」
 言葉はもう決まっていた。沙耶香は魔術師だ。その魔術で魔都を歩いているのだからこの言葉は当然のことであったのだ。しかし少女がそれを知る由もなかったのである。
「それをね。今見せてあげるわ」
「今・・・・・・」
「ええ、今」
 そう少女に語る。
「いいわね。それじゃあ」
 また顎に手をかける。そして自分の顔を近付けていく。少女の目を見ながら。
「中に入るわよ」
「はい」
 少女を頷かせる。完全に心を篭絡していた。
 二人で家の中に入る。中は綺麗で纏まった感じであった。玄関も奥もよく掃除されていて整頓されている。家具も品のいいものばかりでこの家の育ちのよさを感じさせる。少女の品もまたここから来るものだとわかる。全体的に沙耶香にとっては満足のいく感じの部屋であった。
 鍵を閉める。それから少女に声をかけてきた。
「まずは名前を聞きたいのだけれど」
「私の名前ですか」
「ええ。何て言うのかしか」
「佳澄」
 少女は名乗った。
「豊口佳澄です。そういいます」
「佳澄ちゃんね」
「ええ」
 沙耶香の言葉にこくりと頷いて答える。
「そうです。それが私の名前です」
「わかったわ。私はね」
 今度は沙耶香が名乗る番であった。コートを脱ぎながら彼女に対して言う。
「沙耶香っていうの」
「沙耶香さん・・・・・・」
「そうよ、松本沙耶香」
 今自分の名前を彼女に教えた。
「それが私の名前よ。それでね」
 さらに言葉を進めてきた。髪を解き下ろす。
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ