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藤崎京之介怪異譚
case.3 「歩道橋の女」
I 9.05.pm8:16
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弦楽に二つの合唱、それにオルガンとチェンバロ(又は二つのオルガンかチェンバロ)を必要とする。
 各曲も難曲が多く、当然素人には手が出せない代物だ。
「藤崎先生…本当にマタイで宜しいのですか?」
 神父が困惑した表情を浮かべながら俺に確認してきた。
「ええ、マタイを振ります。但し、練習期間を二ヶ月程頂きますが。」
 俺がそう言うと、神父も頷いて「分かりました。」と、なんとなく弱々しい返答を返してきたのだった。
「先生、まさかここへ全員招集するんですか?楽団員は六十人以上いるんですよ?」
 またヴォルフ…。今度からヴォルフ君と呼ぼうか…?
「全員だ全員!」
「仕方ないですねぇ…。明日にでも連絡して、スケジュール合わせときますよ。取り急ぎは、この難解なオルガンですね。」
 忘れるとこだった…。このオルガンをどうにかしないと、明日の演奏会に支障をきたしてしまう。これは死活問題だ。
「佐藤神父、もう少し時間が掛かりますが宜しいですか?」
「ええ、構いません。私はここに住んでますので、時間を気にすることはありません。それでは、お茶でもお持ち致しましょう。」
 そう言うと、神父は直ぐに礼拝堂を後にしたのだった。
「先生、指揮どころか演奏を聞いたこもない楽団でマタイをやるなんて…。少し強引なんじゃないですか?」
 神父が出て行ったのを確認すると、田邊が呆れ顔で言ってきたので、作業に戻っていた俺は田邊にこう言い返した。
「だから二ヶ月の猶予が要ると伝えただろう?二ヶ月もあればマタイだけじゃなく、オラトリオも出来るさ。」
「それこそ無理ですよ…。」
 ま、それもそうだが…。
 それ以降は、俺も田邊も黙々と作業をこなしていた。幸い、他の管は全て正常だったので、点検するだけで済んでいた。
 大方の点検作業を終わらせると、俺は音を出してみるべく演奏席へと移動した。
 幾つかの和音を出してみたが、これといって問題は無さそうだ。
「大丈夫なようですね。音も割れてないですし、これなら全開にしても差し支えありませんね。」
「そうだな。ま、取り敢えず試奏してみるかな。」
 俺が鍵盤に触れる直前、神父が礼拝堂へと入ってきた。
「少し休憩してはいかがですか?なにもないですが、軽い食事を用意させていただきましたので。」
 俺達は驚いた。お茶でもと行って出ていったのに、食事を用意してもらえるなんて…。
 俺と田邊は、直ぐ様下へと降りた。
「申し訳ありません。神父にこんなことを…。」
 俺も田邊も恐縮して頭を下げた。しかし、神父はニコニコしながら、こう言ってくれたのだった。
「いやいや、一人住まいでこういうことには慣れてますから。どうぞ、温かいうちに召し上がって下さい。」
 そう言われて俺達は、有り難くその料理を頂くことにした。
 神父の料
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