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ローマの終焉
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第一章

                       ローマの終焉
 痩せた顔に高い鼻を持つ人物だった。
 フランツ一世は神聖ローマ帝国皇帝だ。この国の歴史は千年近くに渡っている。
 その国の皇帝だ。しかしであった。
 その古き国の皇帝がだ。今沈みきっていた。そうしてこう周りに問うのであった。
「終わりだな」
「はい、完全に」
「これで」
 周囲もだ。項垂れて答える。皇帝は今玉座にいる。その彼にだ。周囲が話すのだった。
「神聖ローマ帝国は滅亡します」
「陛下がサインをされればです」
「それで」
「そうだな。そしてサインをせざるを得ない」
 皇帝は項垂れたまま言葉を出した。
「どうしてもな」
「はい、そうです」
「その通りです」
 周囲はまた皇帝に述べた。ウィーンの宮廷は今深く沈みきっていた。彼等の国が滅亡するからではない。
 古い国が消える。そのことについてだ。彼等は悲しみを抱いていたのだ。
 そのことに悲しみを抱いていた。それでなのだった。
 皇帝はだ。ここである人物の名前を出した。
「ナポレオンは。それが望みなのだな」
「そうです。神聖ローマ帝国を消す」
「名実共にそうすることがです」
「彼の望みです」
「そして彼が皇帝になるのだな」
 皇帝はそのことも話した。ナポレオンの野心についてもだ。
「フランス皇帝に」
「はい、そうです」
「欧州で三人目の皇帝になります」
「それになります」
「私は神聖ローマ帝国皇帝でなくなる」
 皇帝はまたこのことを話した。しかし話すことはもう一つあった。
「オーストリア皇帝になるのだな」
「はい、そうです」
「それは変わりません」
「そのことはです」
 周囲もまた話す。そのことをだ。
「陛下は皇帝のままです」
「オーストリア皇帝としてこれからもです」
「このウィーンにおられます」
「それではだ」
 そのことを聞いてだ。皇帝も言った。
「私は。失うものは一つだけか」
「神聖ローマ帝国という国の皇位だけです」
「その名前です」
「それだけです」
「それだけか」
 皇帝はまた溜息を出して述べた・
「他にはないのだな」
「領土も財産もです」
「何も失いません」
「失うのはあくまで名前だけです」
「その神聖ローマのです」
「わかった」
 ここまで話してだ。皇帝も静かに述べた。
 そうしてそのうえでだ。彼は周囲にこう話した。
「ではだ」
「はい、それではですね」
「サインを」
「それをされますね」
「そうしなければならないことはもうわかっている」
 サインをしなければならないことはだ。オーストリアはフランスに敗れた。敗者が勝者に何かを言うことはできない。だからこそだった。
「それならばだ。もう」
「はい
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