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藤崎京之介怪異譚
case.1 「廃病院の陰影」
U 7.19.am8:45
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 すると…俺は久しく忘れていた恐怖心というものを、その光景だけで再び体感させられることとなったのだった。
 そこには、体の半分を焼けただらせ、半ば骨の剥き出しになった足を引きずりながら歩く老婆の姿ががあったのだ。
 その老婆は俺を見てニヤリと笑い、スッと姿を消したのだった。顔…とは言っても、何とか判別出来るものだったが…。
「なんだ…今のは…」
 何かある…、それは分かりきったことなんだ。それが何なのか解明されないうちは、この件は解決しそうにないと感じていた。

 俺は、幽霊というものを信じていない。人間が死んで魂になるとは考えていないということだ。
 だが、悪霊は信じている。俺はクリスチャンだからな。神がいるのに、悪魔や悪霊がいないわけがない。
 俺は、悪魔や悪霊を「太古の霊」と呼んでいる。
 ではなぜ、人間が霊になって現れるのか?
 まぁ、パターンは幾つかに分かれるが、最も多いものが“空間記録(情景記憶)”だ。
 これは、空間そのものが人の強い感情を記録し、それを一定の条件のもとに同空間に投影するものだ。したがって殆んど害はない。
 だが、悪霊がそれを利用する場合がある。
 悪霊にとって人間の性格や姿を模倣することは、とても容易いことだと言える。霊的資質の格が違い過ぎるのだ。
 そうやって勝手に動き回るやつらが“幽霊”の正体だと、俺は考えている。
 だが、もっと最悪なケースがある。
 それは、人の感情が強過ぎて、悪霊の力を暴走させてしまうことなのだ。こうなってからではお手上げと言わざるを得ない。ま、滅多に無い話しだがな。

 さて、俺はかなりの時間ここにいたと思っていたが、車に戻って時間を確認するとA.M.9:10と表示されていた。
 有り得ない…。少なくとも二時間以上は経っているはずだ。
 俺はそれを確認すべく、ラジオのスイッチをいれた。
―…快晴のようですので、日射病予防に心掛けて下さいね!只今の時刻は九時十二分です!―
 天気コーナーのやましいお姉さんの声が耳に飛び込んできた。
「時計の時刻は合っているようだな…。それじゃ、幻だったってのか…?」
 そう呟いてみたものの、ポケットには壊れた携帯とあの紙切れが確かに入っている。
 ここであれこれ考えても無意味だと思い、俺はラジオをかけたまま車を発車させたのだった。

 まるで…そこから逃げ出すように…。




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