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藤崎京之介怪異譚
case.1 「廃病院の陰影」
U 7.19.am8:45
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人影が動いた。
「誰かいるのか!?」
 返答はなく、俺は病室から急いで出た。
 しかし、そこには来たときと同様、誰もいない静かな空間があるだけだった。
 俺はそのまま廊下に出て先へ進んだが、体にかかる圧力が少し強くなったように感じる。
 一階の端までくると階段があり、俺は二階へ行くべく上りかけた。
「ちょっと待てよ…。」
 何かおかしい…。何で一階に病室が…?俺はもう一度確かめるべく、病室の方を振り返った。
「おいおい…。」
 振り向いた先には、さっきの光景はなかった。
「こっちが本物…ってわけか…。」
 それじゃ、さっき入った病室はなんなんだろうか…。恐らく、あれを見せたかったんだろうと推測出来るが、一体…何のために…?
 俺は一先ず思考するのをやめ、再び階段を上ろうと階段へ足を掛けた時だった。

―…帰れ…―

 どこからともなく声が聞こえてきた。男とも女とも判別し難い声だ。

―…帰れ…帰れ…!―

 その声は段々と大きくなってゆく。その声に合わせるかのごとく、周囲の気温も下がってゆくように感じる。
「何者だっ!」
 俺は声の主に向かって叫んだが、その声は「帰れ」としか言わない。
 今や体は鉛のように重く感じ、俺はその場に蹲るしかなくなった。
 そこで俺は、ポケットに入っていた携帯を取り出した。手も重く不自由に感じたが、何とかそれを取り出し、俺はあることをしたのだ。

 音楽を再生する。

 別に冗談のつもりはない。考えてあってのことだが…。
 そうこうして、やっと携帯から荘厳な音楽が響き出した…。しかしその刹那。

―バンッ!―

 何かに思い切り殴られた錯覚に襲われ、俺は一瞬気を失った。気が付いた時は、なぜか玄関の外に横たわっていたのだった。
 起き上がって頭を触ってみたが、これといって外傷はないようだ。
 しかし…。
「こりゃ…もう使えないな…。」
 見ると、傍らには携帯の無惨な姿があったのだった。
 俺は仕方なくそれを回収し、ふと顔を上げ、そして自分の目を疑った。
 正面玄関にはしっかりとした門が設置されており、そこにご丁寧にも車が停めてあったのだ。
「さっさと帰れってことか…。」
 どうやら、俺は追い出された様だ。
 ふと気付くと、俺の胸ポケットから何かが食み出していることに気が付いた。
「いつ入ったんだ…?」
 不審に思い、ポケットからそれを引っ張り出した。それはノートを千切ったような紙切れで、そこには乱筆な文字でこう書かれていた。

“助けてくれ ニ〇四”

 文字は赤黒く、まるで血文字のようだった。
 俺は、これが英さんからのメッセージだと思い、大切に折り畳んでポケッとにしまい直した。
 そうしてから俺は立ち上がり、今一度玄関を振り返った
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