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豹頭王異伝
薄明
鍵を握る者
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て、一昨日も不寝番を務めたがね。
 寝顔を拝見させて貰ったが、全然、飽きなかったよ」

 運命共同体、背後を守る者と言われて喜ぶかと思っていたが。
 イシュトヴァーンの浅黒い顔には何故か、不安と猜疑の色が見える。
「何だよ、ずっと俺の寝顔を見てたのかよ?
 趣味、悪いぜ」
 暫く逡巡してから冷酷王の雷名に全く似合わぬ、躊躇する内心を繕う余裕も無く口を開いた。
 ゴーラの僭王が見せるとは誰にも想像し得ぬであろう、頼り無い幼子の表情《かお》。

「俺、寝ている間に何か言ってなかったか?
 別に隠し事なんか無ぇんだが、夢の中で大法螺を吹いた気がしてな!」
 腹心のマルコにも見せぬ率直な問いに、ナリスが微笑む。
 ヴァレリウスを苛める時、頻繁に顔を出す悪戯っ子の表情が露出。
 聞かれもしないのに、自分から隠し事は無いと言い出す理由は只一つ。
 人に聞かれたくない秘密、隠し事がある事を隠そうとしているに違いない。

「何か心配事が有るのだね、顔に書いてあるよ?
 悪い夢でも見て魘され、寝言で何か口走ったのではないかと不安なのかな。
 重大な機密事項を洩らしてしまった、と危惧しているのだね?
 我々の様に壮大な野望を抱く冒険児、小暗い野望に胸を焦がす野心家には良く有る事だよ」
 初歩的な推理を働かせ親友の言動を分析、精神誘導の術を選択する魔道大公。
 アルド・ナリスは精神を対象とする魔道学に精通、初級魔道師の免状を持つ。

「こん畜生め、図星だぜ!
 子供じゃねぇんだからさ、そんな事言ってからかうなよ!!」
 イシュトヴァーンは思わず噴き出し、多少は吹っ切れたらしい。
 霧が晴れる様に逡巡を拭い去り、表情が一気に明るくなった。
 憮然とした表情で魔性の主と魔戦士を見守り、無言の行を貫く魔道師の守護者。
 心話で余計な口を挟めば後で数倍の返礼、性悪な仕返しをされる事請け合いである。

「俺さ、良く、うなされるんだよ。
 夢ん中で、しょっちゅう嫌な場面が出てくるんだ。
 その度に、大声を出して飛び起きるんだよ。
 冷や汗、びっしょりでさ。
 身体中、震えが止まらねえんだ。
 脂汗、なのかな。

 何が何だか全然、分からないけど凄く怖い。
 俺が悪いんじゃねえのに何もかもが皆、俺の責任にされちまってる。
 亡者共が俺に群がってくるんだけど、誰も助けてくれない。
 そんな夢なんだ」
 イシュトヴァーンの表情が曇り、痛々しい幼子の顔に変わる。
 魔戦士に批判的な魔道師、ヴァレリウスも思わず同情の念を覚えた。

「大丈夫だよ、イシュト。
 そなたの側には常に魂の似姿、運命共同体の私が居る。
 一時は私も似た様な思いを繰り返し味わい、眠れぬ夜を過ごして来た。
 他の者には分かるまいが心配は
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