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メフィストの杖〜願叶師・鈴野夜雄弥
第三話
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 その日、角谷は一人家にいた。
 何の遣る気も出ない。食事さえ億劫だった。
 そんな中、ふと喫茶店でのことを思い出し、店員の言っていた“メフィストの杖"が気になった。
「いや…あれは私を馬鹿にして揶揄っただけだ…。」
 そう否定してはみたものの、角谷はパソコンを立ち上げてネット検索してみると、そこにはそれらしい情報が数多くあった。
 その中の一つを彼がクリックすると、どうやらオカルトを科学的知見から解明しようとしているサイトらしく、様々な噂の出所やその真実などが詳しく書かれている。
「なんだ…やっぱり…」
 そう呟いた時、彼は“メフィストの杖"を見付けた。
「…え?」
 それを読むや、角谷は眉を顰めた。そこにはこう書かれていたのだ。

- これは飽くまで都市伝説の類いなのだが、その出所も、いつ頃から語られ始めたのかも分かってはいない。明治から大正にかけて同種の言い伝えはあるが、それとも符合しない。昭和初期には、場所や時間などは決まっていなかったと考えられ、大戦後に現在の形になったと思われる。しかし、とある喫茶店のある席で、深夜零時まで待つと言うのは、私にはどうも腑に落ちない。今後も調査する予定だ。 -

「まさか…。」
 その記事を読み、彼は静かに呟いた。そして…こう思った。

- あの店員は…何かを知っているのでは…? -

 そう思うや、彼は上着を羽織って直ぐ様家を出たのだった。

 時は夕刻。角谷は雑踏の中を歩いてあの喫茶店へと向かった。
 紅に染まりゆく街並みには、会社帰りのサラリーマンやOL、これから夜を過ごそうと語り合うカップル、それに買い物をする親子連れなど、実に様々な人々がランダムに通り過ぎて行く。
 角谷はふと、自分はその中でどう見えているのかと考え…そして止めた。それは無意味なことだと思い、そんな自分を嘲笑したのだった。
 暫くあるいてとある角を曲がると、その路地は静かだった。本通りより店が少なく、基本は小さな古本屋に花屋など、この時間にはあまり客層がない店が幾つかあるだけなのだ。
 そしてまた暫くあるいて角を曲がると、そこに見知った店が見えた。
 喫茶バロックだ。
 近くまで来てみると、店内から何やら音が洩れており、角谷は今日が金曜であったことを思い出した。
 定期演奏会の日だったのだ。
「あぁ…そうだったな…。」
 そう呟き、彼は何の感慨もなく扉を開いて中へ入った。
「いらっしゃい…ませ…。」
 言葉が尻窄みになったのはメフィストだ。彼は角谷が…と言うよりも、その風貌の変化に驚いた。
 角谷は暫く店には来なかったが、さして長くはない。そんな少しの間にかなり痩せていたのだ。今の角谷を六十歳だと紹介しても、恐らく誰も疑わないだろう。
「あ…と、お席へご案内致します…。」
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