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をんな
   
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お答えします。

御指摘のとおりです。誰のせいでもありません。私の不注意だったとしか言いようがないのです。

電話中だった相手を憎んだりもし、恨んだりもしました。病棟のベッドに身を横たえていた毎日、いつもいつも後悔するのは、電話の事でした。

何故あの数秒間だけでもスマートフォンを脇へ置くなりして、車庫入れに集中しなかったのか。もっと慎重にできなかったのか、と。数秒を節約する為に、私は残りの一生を棒にふりました。

サービス管理責任者様というお方には昨年十月の面接時にも申し上げましたように、私は、自分を、前向きな、積極的な人間だと考えています。くよくよしたくありません。

ですから、どうして障害をおのれのうちに統合し、これもひとつの「個性」としながら生きてゆくべきか、今はそれに取り組みたいと願っています。恐らく、長いお付き合いになることでしょう。宜しくお願いしたいと思います。

繰り返しになりますが、私は、性格的には明るい人間だと、自分を理解しています。ただ、合わないものは合いません。三ヶ月や四ヶ月間で変われたら却って不自然でないでしょうか。神経質なのです。いずれにしても、すぐに受け入れるのは簡単でありません。

障害者よりは、気の合うお年寄りの方々が待っていてくれるセクションへ行くことを、今後とも許してください。障害を持つ人を嫌っているのでない、これは、勿論です。私にしろその一人です。

車椅子のオトモダチが欲しい、これが大きなファクターでした。実は、私が貴施設に通おうと決めた理由に、車椅子の仲間が欲しいことがありました。

なおまたひとつのファクターは、お風呂です。仕合わせにも元気でおります二人暮らしの母の話ではありますけれども、私を入浴させるのには骨が折れます。娘が幼稚園以来の仕事を三十何年ぶりでやる羽目になったのだと思えば。

おまけに、今度の園児は車椅子。お風呂場にしろ浴槽にしろ、車椅子を考慮した設計でありませんから、大変です。当初ヘルパーさんを頼みもしました。大変さは変わりません。入れるほう、入れてもらうほう、一苦労なのです。

そこへ行くと、週に三日、大きな浴槽につかりながら体がほぐせるのは、私にとり大きな楽しみでもあり、気晴らしでもあります。いえ、入浴のみにとどまらず、私が家をあける時間は、余計な家事が省ける母の為に良い respite と言え、その意味に於いても、皆様には感謝しております。

それはそれとして、かのランナーの言葉ではありませんが、それでも、私は自分を褒めたいと思います。思えるまでになりました。

いかに前向きな自分であっても、そして、電話の相手は許しましたにしても、落下事故そのものを記憶から消すことは出来ませんでした。現時点でも出来ません。出来るものですか。

何かの拍
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