暁 〜小説投稿サイト〜
極短編集
短編29「よくありそうな昭和な話」
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 〜(かた)と、いう職業がある。今は、不適切という事で、ほとんど使われない言い方かと思う。
 牛方(うまかた)馬方(うしかた)という職業がある。昔話によく出てくる仕事だ。昔、牛や馬を屠殺(とさつ)し、その肉や骨、皮を加工した職業の人たち。血や油にまみれ、その仕事は重労働である。
 土方(どかた)という職業がある。その昔、開発工事に伴い、文字通り土を運んだり、穴を掘ったりする肉体労働者をそう呼んだ。土だけでなく、重油や、産業廃棄物にまみれ、身体を張り、命がけの現場も多い。今でも呼ぶが、正式ではない。
 さてここからは、良くありがちな話を書こうかと思う。貧しさに気付くという話しだ。話しの進行は、「僕」で進むが、今回は実際の僕の話ではない。だから、これの話しはあくまで。例え話ぐらいで、読んで欲しいと思う……

◇◇◇

 ずっと昔。子どもの頃、なぜ母はこんなに汚いのかと、思い悩んだ時期があった。そして悩みは、いつしか否定、無関心へとつながっていった。

「おら、さぼってねえで、とっとと働け!チンポも身体も、生きてるうちに使え!!」

 母は、小汚く土と汗にまみれた、荒くれの男たちに、汚い言葉で言い放っていた。仕事で欠けた前歯……そして事故で短くなった小指。その何もかもが小学時代の僕にとって、そんな母の姿を見るのが、とにかく嫌で仕方なかった。
 母は土方女(どかたおんな)だったからだ。
 
 ある日、授業参観があった。僕は、学校からのお便りを、母に隠していた。そして参観日当日……

「お前んちの、母ちゃんがきてるぞ!」

 僕は、ゾクッとした。どうやって知ったのか!?僕は、見たくないものを確かめるため、いやいや振り向いた。友達の、綺麗なお母さん達が沢山並ぶ中、一人みすぼらしい姿があった。
 母だった。

 それでも母の着ている服は、我が家では一番良い服だった。鼻がツーンとなった。胸が苦しくなった。僕は、なぜか悲しかった。その日の夜……

 なぜ、来たんだ!?

 汚い服で来るな!

 と、母をなじった。
 僕は貧乏とかは、どうでもよかった。なんと言えばよいのか……愚かさが出ている。あの、みすぼらしい感じが、涙が出るほど、たまらなく嫌だったのだ。
 結局母が、授業参観に来たのは、あの一回だけだった。そして小学校の卒業式、中学、高校の卒業式と……来る事はなかった。
 そうそう僕は、早く働きたかった。しかし大学は母の、たっての希望だった。僕は母の稼いだ金と、昼間働き夜間高校で学びながら大学に入った。

「土方の息子が大学〜!?」

 時々会う、母の職場の仲間に言われた。

「早く働いて、母ちゃんを楽にしてやれ」

 とも言われた。
 僕は奨学金をもらい、大学を
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ