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至誠一貫
第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
五十一 〜城下での出会い〜
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。お料理も手伝ってはいますけど」
「ほお。その歳で、旅をしているのか?」
 愛紗が、感心したように少女を見る。
「はい。家の用事で河北に来たんですけど、家はヘイ州なんです」
「ならば、帰らなくてはならないのではないか?」
「そうなんですけど。途中で困っている人達を助けたら、お金がなくなっちゃったんです。それで……」
 何とも、殊勝な事だ。
 愛紗は、頬を紅潮させて、頷いている。
「立派なものだ。……あ奴に、爪の垢でも煎じて飲ませたいぐらいだ」
 そう言われた当人は……一心不乱に食べ続けているな。
「だが、その腕力は大したものだ」
「いえ、大した事はありません。季衣、あ、私の幼馴染みなんですけど、この娘の方がもっと凄いですから」
 そうは言うが、謙遜であろうな。
 いくら黄巾党の活動が収まったとは申せ、まだまだ大陸中の治安は悪いままだ。
 その中を一人で旅をしたというだけで、腕が立つと見るべきであろう。
「そなた、名は? 私は関羽と言うが」
「え? じ、じゃあ、あなた様があの美髪公ですか?」
「何だ、私の事を知っていたのか?」
「はい、関羽将軍と言えば、あの土方さまの許で黄巾党相手に大活躍された、そう聞いていますから」
 そう言って、少女は私を見る。
「で、ではまさか、こちらの御方は……?」
「そうだ。こちらがその土方様だ」
「そ、そうだったんですか! も、申し訳ありません、そうとは知らずに大変なご無礼を」
 慌てて頭を下げる少女に、私は手を振る。
「何も無礼は受けておらぬ。よって、そなたに謝られる謂われもない」
「は、はい……。そうでしたか、あなたさまがあの……」
「『鬼の土方』、か?」
「……ですが、そんな怖い御方には見えません。どちらかと言えば、お優しい印象です」
「その通りだ。ご主人様はお優しい御方、ただし庶人を苦しめる者には容赦はせぬ、という事だ」
「そう、ですよね。……あ、申し遅れました。私は典韋って言います」
 ……よもや、あの悪来典韋……いや、恐らくはそのまさか、であろう。
「典韋。先ほど申していた幼馴染み、もしや許チョと言う名ではないか?」
「ど、どうしてそれをご存じなんですか?」
 大仰に驚く典韋。
 もしや、と思ったがその通りであったか。
「やはり、な」
「ご主人様は、知識豊富な御方だ。我らが知らぬ事をご存じでも、何の不思議もない」
「そ、そうですか……。でも、わたしも季衣も、ただの農民ですけどね。あ、でも」
 と、何かを思い出したように、典韋は手を打って、
「季衣、そう言えばヘイ州の刺史さまに仕官したって、そう聞いていました。今度、一緒に洛陽に行くって」
「ヘイ州刺史……曹操殿の事ですね、ご主人様」
「そうだな。典韋、お前は故郷に戻るための旅費を稼いでいる
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