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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
第23話 消え逝った願い
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に。

 ―――痛々しい。彼女は不幸だ。
 その、事の大きさにまるで気づいていない。
 だから『頑張れば何とかなる』、『頑張れば人生は開ける』そんな風に『やがていつかは』と一生報われない歩みを続けることに成る。

 ―――ああ、腹が立つ、胸糞悪い。腸が煮えくり返りそうだ。
 何故、誰も教えてやらないのだ。何故、彼女に押し付けるばかりで労わってやれないのか。
 恭子にしても、巌谷にしても、両親にしてもだ。
 己のエゴを押し付けるばかりで、彼女の幸福を願ってやれないのか。

 彼女は確かに篁の家に生まれ、その責務を背負って往かねばならない宿業を背負っている。
 彼女は篁家や日本帝国の奴隷だ―――機械と何ら変わりがない。

 それでも、唯依は機械でも奴隷でもなく、一人の人間だというのに―――彼女が立派になる事と、彼女が幸福になる事は全く別だというのに。

 どいつもこいつも、唯依が役割を果たしているか、果たせているかばかり。
 何故、何故――――誰一人として彼女の幸福を願ってやれないのかッ!!!


「唯依…」
「……はい――んっ!?」

 腕を緩め名を呼ぶと、片腕の中の唯依が胸元から見上げる。―――その唇を奪う。獣が貪るように一心不乱に彼女の唇を唇でこじ開けて舌を啜る。

 一瞬驚愕に目を丸める唯依、次の瞬間には彼女を組み敷しいていた。そして、貪っていた唇が離れ、熱い吐息が漏れる。


「……お前を幸せにするなんて事はきっと怖いくらいに簡単で、(おれ)じゃなくても良いんだろうな。」

 出来なかった事ばかりを数えて、出来たことを褒めてあげられない余裕のない生き方。
 張り詰めて、今にも切れてしまいそうな弦。それが唯依という娘だった。

 彼女の頑張りは、彼女に還るものではないから―――なんて報われない生き方だ。
 だからこそ見たいのだ。彼女が幸福に生きる姿を、彼女が心から笑っていられる姿を。
 死してなお愛した女の幸せを願った滅び逝った世界の俺―――その残滓が魂に刻まれているのだ、濯ぎ落すことなんぞ出来はしない。

 ただ大切だった者を守りたいという望みさえ果たせず、報われない人生を生きる彼女が幸福になって欲しいという願いさえ踏みにじられて
 ――――憎悪と嘆きの果ての無念、忘れる事なんか出来はしない。

 そして何より―――愛した女を誰かに委ねるなんて出来るはずが無い。


「ああ、でも駄目だ。他の誰にもそれを任せたくない―――(おれ)にはお前しかない。
 唯依、お前を愛している。男として、何もかも。
 守るだけじゃ足りない、お前を己自身の手で幸せにしてやりたい。」
「馬鹿な事言わないでください―――。」

 唯依が馬鹿だという、ああ実際に馬鹿なんだろう。
 
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