暁 〜小説投稿サイト〜
変化球
2部分:第二章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第二章

「カーブ、スローカーブにスライダー」
 まずは三つであった。
「シュートも投げたな。高速シュートもだ」
 持ち球は確かに多い。伊達に変化球投手と自負しているわけではない。なお彼は自分の肘にはかなり気を使っている。変化球を投げることが多いからだ。
「スラーブも投げたな。高速スライダーも」
 持ち球がどんどん出て来る。
「縦のカーブも投げた」
 所謂昔で言うドロップだ。
「それにシンカーも投げたな」
 しかしであったのだ。
「それも駄目だった。フォークもさっきカットされた」
 これで十球であったのだ。残るはであった。
「これ、いくか」
 セットポジションからサイドスローで投げる。そのボールは。
 ふわりとした感じの投球だった。チェンジアップだ。これで相手の意表を憑いたつもりでもあった。だがそのチェンジアップもだ。
 内角低め、難しい場所へのボールも打たれた。あえなくカットされそのうえでファールにされたのであった。実に見事だった。
「ちっ、今のもか」
 ファールにされた隆博は思わず舌打ちした。
「あれをカットするか」
 予想はしていたがであった。それでも悔しいことは事実だ。
 そしてだ。彼はあらためて考えた。今度はどうするかであった。
 次に投げるボールはだ。これだった。
 スプリットだ。緩やかなチェンジアップの次は速めの鋭い変化球だった。しかしそれも。
 今度はボールから外角高めに微かに入る油断したらボールと思い見送るそのコースも打たれた。今度は三塁線を微かにそれた。一歩間違えればそれでヒットになっているところであった。
「危なかったな」
 今は彼も汗をかく場面だった。本当に一歩間違えれば逆転であった。
 その幸運にまずはほっとしてだ。またバッターに顔を戻す。
 バッターはそのまま右打席に立ったままだ。対する隆博も右ピッチャーだ。右のサイドスローで投げるところが見難い為有利な筈だった。しかしであった。
 それでも打たれる。そうした状況だった。彼は焦ろうとする己をまずは抑えた。
「焦るなよ」
 自分自身への言葉である。
「それだけはな」
 勝負に焦りは禁物だ。それはわかっていた。だからこそ自分自身に言って聞かせたのである。
 そのうえでまた相手を見る。表情はない。あえて消している感じだった。
 これまで十二球投げて全てファールされ見送られている。選球眼も確かな相手である。
 だがここでだ。彼は少し賭けた。もう一球ボールを投げようと思ったのだ。
「よしっ」
 パームであった。外角でそのまま落ちて微かにボールになる。これならどうかと思ったのだ。
 しかしそれはあっさりと見送られてしまった。何でもないといった感じであった。
「やっぱりな」
 見送られてからの言葉である。
 
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ