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乱世の確率事象改変
道化師が笑う終端
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するのが最良であった。
 ふるふると首を振った。まだ、考えなくていい。今は違う事を考えよう、と。

「この戦、風もこの局面まで予想出来ていましたか?」
「お兄さんが秘密基地を作っていた時点で予測の一つとしては……」
「華琳様の動きも?」
「あの方の性格は皆知っているのですよー」

 口に手を当てて慎ましやかに笑う風であれど、瞳に宿るのは羨望の眼差し。
 この局面を作り上げたのは曹操軍だが、蜘蛛の巣に為したのは自分達とは違う二人。黒き大徳と賢き狼。華琳の性格であれば最後に選ぶのは何か……其処まで考えて十面埋伏を行えるように曹操軍をばらけさせる戦絵図を、官渡に到着した時から描いて組み立てていたのだ。

――劉備軍はこんな恐ろしいモノを内に飼って……いえ、気付かせずに騙し通していた彼こそ異質に過ぎる。

 一寸だけ、稟の背筋に寒気が走る。事実として見てみれば、彼と朔夜は曹操軍を華琳の代わりに動かしていた……それは誰も届き得なかった覇王の頂に二人なら届く、そう取れる。
 つまりは、朔夜に近しい思考速度を持つ雛里が彼の王佐として常に隣に居たあの時は、もう一つの曹操軍が出来上がっていたというに等しい。劉備軍に留まり続けて成長していたなら、例えいくらかの無茶を推してでも、この官渡の戦を平然と掻き乱しに来たことだろう。
 フルフルと首を振って思考を追い払う。昔の彼の事は、今は考えなくていい、と。

「そうですね。あの華琳様が……ご自分の手で戦の終端を担わないはずないですから」

 話すのは主のこと。
 臣下としては止めるべき。されども軍師としては取るべき選択の一つとして、二人は華琳の判断に口を挟まず。
 また、彼と朔夜の策略を信頼し、有用であると判断したからこそ……この戦の終わりを任せた。

「戦の後が一番大変かと」
「雛里が持ってきた斧、彼は使うでしょうか?」
「……華琳様なら使わせると思いますよ」
「幽州掌握の布石として怨嗟を晴らさせる為に“彼に袁紹を殺させる”……ですか。私達が選んだのも同じ結論ですが……」
「そですねー。なんとなく、お兄さんと華琳様が組んだらもっと酷い事になる気がするのですよー」

 風も稟も、この戦場に居ない主と、不可測ばかり起こす彼を思って空を見上げる。
 彼女達を以ってしても、華琳と秋斗の思考の先は読めない。だからこそ彼女達にとっては得難き幸福でもあるのだが。

 日輪が眩しく輝いていた。暖かい日差しは心地いい。雲が光を遮ることなく、青々とした空が広がっていた。
 ただ、戦が終わるというのに、彼女達の心の中には不安の雲が浮かんでいた。



 †



 剣戟は鋭く速く、それでいて尚、力強さは十分に過ぎた。
 俺の引き上げられた膂力を持ってしても耐えられない程の
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