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会見
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し、わざと設備でも壊せばともかく……それに帝国には少なからず金を払わされるだろうから」
 ラインハルトとの会見で、ビュコックらの生命の保障を得た。口約束ではあるが、それを告げた時の彼の表情からそれを反故にするとは考えられない。
 新たな銀河の覇者は安全な場所から安穏と宇宙を手に入れたのではなく、常に陣頭に立っていた。たとえ口約束であっても守らないことは自分の生き方を否定するようなものだ。
 もしかしたら、若き覇王に自分に仕えないかと誘われるかも知れない、と他者に話したら笑われそうなことを想像してもみた。それは現実のものとなり、それに対する返答は心から彼を納得させられたとは思えない。それでも考えておいてよかった、とヤンは心から思った。
 もし帝国に元帥として招かれることになった、と自分を待つ者達に告げたら皆はどんな顔をしただろうか。ついでに、私の部下も一緒に召し抱えてくれると言うから一緒に来ないか、と付け加えたらどうなっただろう。
 仮定からの想像はヤンの好むところではないが、自分の返答次第では現実足り得た。
 ラインハルトの自尊心がそれを許さなかっただけで、歴代皇帝ならばヤンや部下達の生命と引き換えに強引に招集したかも知れない。単純に自分の生命と引き換えにしてもいいほどの主義主張はヤンは持ち得ていないし、それによって回りの人間を巻き込みたいとも思っていない。
 つまりはヤンが断ってもラインハルトがそれを認めなかったら、帝国の元帥府にヤンの姿があったかも知れなかったのだ。
「帝国元帥だと、この程度の酒は毎日飲めるのかな」
 ミニボトルであるが、封を開けたばかりのものは香りが違う。
 ヤンはうっとりした表情を浮かべ、小さなボトルの口に鼻を近づけその匂いを嗅いだ。それから氷を入れたグラスに注ぐ。
 ボトルが小さい為か、新品独特のトクトクという心地よい音は聞けなかったものの、それでも氷を伝って琥珀色の液体がグラスに溜まっていく様は美しい。室内の照明に氷が反射して光っている。
 少しの間、ヤンは目を細めて見ていたが、うれしそうにグラスに口をつけた。
「んんー……」
 喉を滑り落ちていく液体は冷たいのだが、強いアルコールが熱を感じさせ、ヤンは唸り声をあげる。
 四万の敵艦に囲まれて飲む紅茶は正直、茶葉の品質や、それを入れてくれたユリアンの技と比べると香り少なく味気無いものだった。
「敵艦の中で飲む酒の方が味は上かな?」
 これは紅茶よりも酒が勝っているからではなく、今なら謀殺されるのは自分一人だという一種の気楽さのせいだろう。自分の馬鹿げた決断───実際、長い付き合いのあるアッテンボローはそう言い、ヤンも否定しなかったが───により、迷惑などという言葉で済むレベルではない迷惑をかけ、これからもかける自覚もある。
 酒は美味いが、だから
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