アインクラッド 後編
圏内事件
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閑話休題。
とにかくここまでの話は全て、
「はい、お待たせ! エミさん特製ハンバーグですっ!」
ジュウジュウと食欲をそそる音を絶え間なく放ち続ける鉄板を二つダイニングテーブルに並べ、自分はマサキの対面に腰を下ろしたエミその人が、マサキに対し(聞いてもいないのに)ベラベラと喋った本人談なのであった。そのため裏付けは取っていないが、彼女のスカートが以前のいかにも安物然としたホワイトから可愛らしい薄いブルーに、流れるような黒髪を後ろで束ねているアクセサリーも、簡素な黒のヘアゴムから白地に黒のドットが入ったシュシュに様変わりしているのを見るに、あながち嘘ではないとマサキは考えていた。もっとも、それが嘘だろうが本当だろうが、マサキには関係ないのだが。
「いただきまーす!」
「…………」
「……あれ? マサキ君食べないの? ひょっとして、ハンバーグ嫌いだった?」
「……いや」
当たり前のようにハンバーグをパクついているエミに抗議の視線を向けたマサキだったが、彼女には効果がなかった。やや大げさな溜息と共に肩を竦め、脂のハネも大分収まってきていた肉の塊にナイフを入れる。ご丁寧なことに中にはチーズが挟まれていて、一欠片を口に放り込むと、舌の上で肉とチーズ、ソースの三味が調和した。満足げに頷くシェフを見るに、どうやらこれは彼女にとっても納得のいく味だったらしい。
「うん、大成功! あ、マサキ君、明日は何が食べたい?」
「明日も来る気なのか……」
呻くような声を上げて、マサキは右手で額を覆った。
ピナの一件の後、エミはこの家が大層お気に召したらしく、頻繁に姿を見せるようになっていた。そのうち「ただお喋りに来るだけだと悪いから」とかいう理由で手料理を振舞うようになり、今ではキッチンのことはマサキよりもよほど把握している有様である。前線でのレベリング時や階層攻略時に何故かよくでくわすことも併せれば、週に五日程度は彼女の顔を見ている計算になるほどだ。
ここまで来ると、マサキの視野に「エミを追い返す」という選択肢が入ってくるのだが、それには一つ問題がある。
それは、彼女がアインクラッド屈指の美少女であるということだ。しかも、つい最近まで頻繁に中層プレイヤーたちの支援を行っていたため、ボリュームゾーンでも名前と顔が売れている。つまりどういうことかと言うと、下手に追い返した場合、かの《閃光》様のそれに次ぐ規模とさえ言われている《モノクロームの天使ファンクラブ》――もちろんどちらも非公式だが――が強く反発する可能性が極めて高いのだ。
残る方法はマサキが家を引き払って逃亡するか、現状を大人しく受け入れるかの二択。前者はマサキとしては受け入れがたく、必然的に後者を選ばざるを得ない。のだが、もしこの一方的なストーキングが露見
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