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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第2章 夜霧のラプソディ  2022/11
誰かの記憶:深い霧の中で
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とにかく、生きてここを出ることが最優先………』


 そこまで言いかけて、彼の言葉は途切れる。突如として現れた闖入者達――彼の仲間のようだった――に包囲され、その全員から恨みがましい視線を向けられる。


『昼飯買うのにどんだけ時間掛かってんスか!?』
『今日は俺の驕りとか大見得切っておいて、何やってんです!?』
『ってか、なんで自分だけ女の子とお近づきになってるんですか!?』
『お、おめぇらうるせぇぞ! 俺だってもうすぐ戻ろうと………って、ピザ買い忘れた!?』


 罵詈雑言の集中砲火は、彼の失態が判明するや否やさらに火力を増し、そのまま先程のピザ専門店まで連行される。助けを求める視線を送る彼に、またいつか会えるようにと願いながら手を振って送り出し、宿屋へと足早に戻る。
 その道中の道具屋で委託販売されていた【アルゴの攻略本】と銘打たれた無料の製本アイテムも手に入れて、再び歩を進めた。この湧き起こった感情を、前に進む意思の火種を消さないために。
 宿に辿り着き、購入したピザを配る。私の当初の目論見通り、劣悪な生活条件――――衣食住でいうならば、食というものは成立してさえいなかった――――の一端を一瞬ながら解消したことで全員の表情に僅かに笑顔が綻ぶ。この安らいでいる雰囲気に一石を投じるのは心苦しさがあるものの、それでも言わずにはいられなかった。


『私、外で狩りを始めてみようと思う』


 言えた。と、妙な達成感が込み上げる反面で、言ってしまった。と、後悔の念がちくちくと責める相反した感覚を覚える。圏外に充満する死の要素が恐ろしくて、私たちはこうして宿屋の一室に閉じこもっていたはずなのだ。本来であれば、そういった外に関するワードはこのコミュニティでは暗黙の了解でタブーとなっていたにも関わらず、それを簡単に打ち破ってしまうのには少なからず罪悪感があった。だが、その心配を余所に三人の反応は意外なものだった。


『じゃ、こんな辛気臭い宿もとっとと引き払うよ。一緒に狩ればそれなりに稼げるだろうさ』
『いいね! どうせならもっとグレードの良い宿屋借りてゆっくりしようよ!』
『お風呂とかあると、嬉しいかも……です……』


 後に聞かされたことだが、部屋の狭さにうんざりしていたとか、食べ物が欲しいとか、かわいい服が欲しいとか、お風呂に入りたいとか、そういった不満に対応する欲求が高まる反面で周囲の空気から、「狩りを行いたい」といった発言を忌避して誰もが我慢しながら一週間を過ごしていたとのことだ。同時に、いつまでも閉じこめられていることに対しての焦燥感も少なからずあったそうだ。つまり、そういった自覚を最も欠いていたのは自分ということになるのだが………
 そして、図らずもこの空気を打破した私はそのままリーダーとして
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