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【銀桜】4.スタンド温泉篇
第4話「念には念を入れておく」
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表情(かお)に出るタイプで、これは明らかに怒ってる顔つきだ。
 だがピザのないオンボロ旅館に来ても、無理矢理働かされても、表情一つ変えなかった妹が今になって怒っている。
 その理由(ワケ)がさっぱりわからない銀時は思うまま聞いてみたが、双葉はムスっとした顔で答えてきた。
「怒る?なぜ私が?……だいたい兄者にはそこのスタンドがいるから寂しくないだろ」
 冷たく言い放って、双葉は部屋に戻って行った。

【あんたも罪深い男だね】
「ギャアアアアアアアアアア!」
 いつの間にか真横に浮かんでいたレイにまた絶叫。
「俺にばっか憑いて来んな。双葉(アイツ)に憑け。アイツ接客とか全然向いてねェから。アイツみっちり叩きこめ!」
【無理よ。私はあの子に嫌われてるみたいだから】
 さっきの突き刺さるような視線。
 あの視線が横にいた自分にも向けられていたことに、レイは気づいていた。その原因も理由もレイには察しがついていたが、兄の方は眉をひそめるだけで全然気づいていないようである。
 鈍感な男に心の中で溜息をつくも、レイは真相を話そうとはしなかった

【明日は早いからとっと寝なよ】
 レイに言われなくても銀時は早く寝たかった。
 せめて夜だけは寝ることでこの現実から逃れたい。
 だが現実は、そんな安息すら許してくれない。
 布団の真横には魂の抜けた長谷川の肉体が並んでこっちを見ている。
 反対側を向けばスタンド化した長谷川と目が合う。
 そして永遠とつづく閣下たちのUNOの雄叫び。
「こんなトコで寝れっかァァァァァァァ!!」
 悲痛な叫びは銀時を余計眠れない夜に誘うだけにしかならなかった。

* * *

 消灯時間が過ぎ、闇に埋まった仙望郷の廊下。
 真っ暗な道を一つの影が歩んでいる。
 『湯』と書かれた大きな暖簾(のれん)をくぐって、岩場が広がる露天風呂へ足を運ぶ。
 ひんやりとした空気が肌に伝わる。影は手に持つ小さな灯で周辺を照らした。
 幽霊(スタンド)(こころ)を癒す温泉。行き場を失った魂を癒して、あの世へ成仏させる場所。
 それが『仙望郷』のかつての姿だった。仙望郷を訪れるのは、未練からの解放を求めるスタンドたちだけだった。
 だが――
「ここじゃない」
 来た道を戻って、また別の場所を目指す。
 影は歩み続ける。探し続ける。
 ただ一つの幻想を抱いて闇の中を。

=つづく=

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