第百四十話 キルヒアイス家の人々
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たらいいのだろうかと妻と途方に暮れたものだ。しかしその点はモルト子爵の手引きで、執事やメイドが既にスタンバイをしており、テキパキと迎え入れてくれた。
しかしいきなり『旦那様、奥方様、お帰りなさいませ』は面食らった。そんな事を言われるのは精々若い頃に通ったメイド喫茶でしか覚えが無かったから。
その日から、どう生活したらいいのだろうかと散々悩みながら今に至っている。
庭木を剪定しようとすると、庭師が『旦那様自分がやります』とやってくるし。妻は妻で掃除や洗濯をしようとするとメイドが、『奥様の御手を煩わす訳にはいきません』と来るし。至れり尽くせりなんだが、元々平凡な一庶民だった我々にはどうも勝手が行かない事ばかりだ。
余りに、やることがないので、執事やメイド達に休んでもらい自分達で庭仕事や掃除洗濯をしようとしたところ、執事やメイド長に散々諭されてしまった。
『悪いが今日はみんな休んでいて貰いたい』
『旦那様奥様、何故で御座いますか?』
『君たちも疲れただろうから、たまには私達夫婦が仕事をしようと思ってね』
私達夫婦としてみれば、普段働いて貰って居るので、たまには休んだらと言う事と、久しぶりに庭仕事や掃除洗濯をしたいと言うことも有って話したのだが、彼等の彼女らの答えは私達夫婦にとっては驚気であった。
『旦那様、旦那様は我々が要らないと仰っているのですか?』
『いやそんな事はない、普段から良くして貰って居るから、たまには休んだらどうかと言う事だよ』
『お気持ちはありがたい事ですが、我々は確りと休みを頂いております』
執事の強い拒否の姿勢に妻がフォローしてくれる。
『掃除洗濯とかばかりで大変じゃないのかしら?』
『奥様、私達はそれが仕事で御座います』
その言葉に続いて執事が諭すように私達夫婦に話しかける。
『旦那様、奥様、我々貴族に仕える者達はそれ相応の対処や行動を取れるように教育を受けております。更に皆が皆この仕事に誇りを持って居るのです。その仕事を取り上げると言うのは、我々にとっては放逐される事と同じ事なのです』
『いや、そんなつもりで言った訳ではないんだが』
慌てて否定した,私の答えを聞きながら、執事は諭すように話を続ける。
『判っております。旦那様、奥様は数年前までは平民でいらっしゃったのですから、しかし貴族社会では主に仕事を取り上げられた使用人は二度と他の家に仕えることが出来なく成るのです。何故なら主人に愛想を尽かされた、そう思われるからです。貴族とは我々のような使用人達に仕事を与えて下さる存在なのです。願わくば、我々の仕事を奪うような事はお止めくださって頂ければ幸いです』
『判った』
『判って頂ければ幸いで御座います。差し出がましい口を効き申し訳ございません』
こうまで
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