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青い春を生きる君たちへ
第18話 青い春を生きる君たちへ
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田中憲政は、優秀な情報工学者……すなわちハッカーであり、国内の小さなIT企業でその才能を生かしていたが、その実態は内務省公安部の局員であり、ダミー企業の一社員という隠れ蓑のもと、公安の情報収集活動の一翼を担っていた。彼の行っていた活動は、通信傍受(シギント)で、インターネット回線や電話回線を監視しており、もちろんそれらの利用者達の許諾などはとっていないが、政府内ではそれらの超法規的活動は暗黙の了解となっていた。

彼が、一体どのような経緯で公安への反感を募らせていったのかについては、彼自身が早々に葬り去られてしまった事もあり、ハッキリと明らかにはなっていない。ただ、コンピューター言語という"世界共通語"を自在に操る事ができる、英語でギーク(日本語のヲタクよりも、更に侮蔑の意味合いが強い……らしい)などと表現されたりもする彼らは、国家という枠組みよりも、全世界が一つになった「インターネット」という枠組みの方に実感を持ちやすくなる傾向がある事も事実で……国家への忠誠が必要とされる諜報活動において、彼らのような国家に対する帰属意識が足りない連中を登用せざるを得ないというのは、現代における各国諜報機関に突きつけられた大きな課題だという事は間違いない。

彼がやろうとした事は、公安など国家権力による盗聴やハッキング、プライバシーの侵害の事実を公表する事だった。国家に与して、表現の自由、思想の自由……それら現代社会において保証されてしかるべきはずの個人の権利を侵し続ける事に良心が耐えられなくなった……そう述べたメモが後ほど見つかったが、しかしそんな程度の「人権侵害」など、今時どこの国もやってる事で、そもそも現代社会においても個人の自由なぞ、国家の枠組みに優先して保証された試しなどない。だからこそ日本もそれに遅れをとるまいとしているのであり、日本政府のその所業を告発した所で、それはただ日本の一人負けの状況を生み出すだけだという所まで考えが及ばないのは、田中憲政という人間の限界を示していた。

公安は、早急に田中憲政の造反を察知し、逃亡を企てた彼を始末した。しかし、彼はそのハッカーとしての才能を、死の間際に遺憾なく発揮し、公安のスパコンの中に、"爆弾"を……あるトリガーを引けば、その中にある重要機密を全てネットの海の中に垂れ流す、ウイルスを仕込む事に成功した。

そのウイルスのトリガーは、彼の息子……田中智樹に委ねられていた。



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田中智樹には、監視がついた。しかし、うっかり手出しするとウイルスが暴発し、公安の……いや、日本政府の重大な弱みが全世界に拡散してしまう恐れがあり、監視して目の黒い所に止め置く事くらいしか、公安にはできなかった。田中智樹自身も、そ
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