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雲は遠くて
64章 信也と美結たちの正月
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64章 信也と美結たちの正月

 2015年、1月3日の正月、午前8時ころ。東京の下北沢。

 早朝は、曇り空もあったが、青空が広がっている。

 信也がパソコンを眺めている部屋には、
信也の妹の美結が()れている、コーヒーの甘い香りが漂ってくる。

「しん(信)ちゃん、コーヒー入れたわよ。
きょうもいいお天気よね。ちょっと寒いけど。うふふ」

 信也の部屋をのぞいて、美結はそういって、微笑む。

「外の最高気温が、10度くらいだろうからね。こんな冬の寒さをよろこぶのは、
動物園の北極グマくらいかな?あっはっは」

 そういって、信也は美結を見て、声を出してわらった。

 信也の部屋の、南のベランダの窓ガラスからは、朝の光が静かに差し込んでいる。

 この頃、信也は、ドイツの哲学者、ニーチェの芸術論が気になっている。

 そのきっかけは、去年の10月に、信也たちのモリカワと竜太郎たちのエタナールの
共同で運営を開始している、バーチャルなインターネット上の下北音楽学校の、
第2回の公開授業で、清原美樹が講師となって、夏目漱石とニーチェについて、
信也にとっても興味深い話をしたからだった。

 信也は、その後、夏目漱石のことやニーチェのことが気になって、いろいろ調べたのだった。

「美樹ちゃんの漱石とニーチェの講演、すごくおもしろかったよ」

「ありがとう、しんちゃん」

 去年のモリカワ・ミュージックの忘年会で、信也と美樹は、そんな会話をした。

「おれさ、ニーチェにあまり関心なかったもんだから、ニーチェについて調べたんだよ、美樹ちゃん。
彼の芸術論って、特にいいよね。ヤフーの知恵袋なんかに、いいこと書いてあってさ。
ニーチェは、力強く生きるためというか、魅力ある人生というか、幸せな人生のためには、
理性よりも芸術のほうに価値があるとか、真理よりも美のほうに価値があるという考え方を、
提唱したらしいんだよね。おれもそれには、共感するし大賛成なんですよ。あっはっは」

「わたしも、音楽をやる意味を、ニーチェにあらためて教わったような気がしているのよ、しんちゃん。」

「ニーチェって人は、それまでのプラトンたちのヨーロッパ哲学や合理主義に、
異議を提唱して、それまでの価値観を転倒して、常識とかも否定して、考え方を根底から、
ひっくりかえしてしまったんだから、すごいよね。ニーチェ以前のヨーロッパ哲学では、
芸術よりも理性に価値があるとか、美よりも真理に価値があるとかだったらしいからね。
そういえば、おれちょっと気がついたんだけどさ、美樹ちゃん。
夏目漱石とニーチェは、ほとんど同じ時代に生きていたのは確かだけど、
夏目漱石は、ニーチェよりも20年くらいあとに生まれ
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